ただの、幼なじみ
焦がしミルク
第1話 幼なじみ
朝6時のアラームで目が覚める。いつも通り目をこすりながら上体を起こし部屋を出た。
台所からは忙しなく朝の支度をする音が聞こえてくる。
「あんたこれ、弁当持って行きなさいよ。」
廊下を歩くと台所から母親が声をかけてきた。見るとテーブルの上には弁当箱2つと朝飯が置かれていた。
「なんでふたつ?」
「佐和子ちゃんの分も。お昼は購買で買ってるって言ってたから心配でねぇ。」
「ふぅん。」
廊下へと戻り洗面所へ向かう。
この春に高校生になった俺は、中学の頃と同じくバレーボール部に入った。朝練は2日から3日に増えた上に、通学の時間も倍になった。今日もその朝練へと自転車で向かうというわけだ。
家を出て自転車に手をかけた時、隣の家の扉が開いた。
「カズ、乗せてって!」
佐和子が慌てた様子で出てきた。
「一回100円な。」
「ケチ!そこは幼なじみとしてサービスしといてよ。」
佐和子はスクールバッグをリュックのようにさっさと背負うと自転車の荷台に乗った。
「お前、重くなったんじゃね?」
「失礼ね!筋肉が増えたんですぅ。」
一人の時より重いペダルを踏みしめ、さわさわと吹く風の中、学校へと向かった。
小学校に入る前から家が隣同士でずっと同じ学校に通う俺たちは、親同士の仲が良いこともあってよく遊んだりお互いの家で飯を食ったりした。
俺のバレーの試合を佐和子は必ず見に来たし、佐和子のテニスの試合も俺は必ず見に行った。
俺が好きな子に告白してフラれた時には佐和子が励ましてくれたし、佐和子が彼氏と別れた時には何時間も愚痴を聞いたりした。
そういう関係。腐れ縁みたいなものだ。
校門の前でゆっくり自転車を停めると、佐和子がさっと降りる。
「いやー間に合った!やっぱり自転車だとあっという間ね。」
「おいこれ毎日は無理だぞ。」
「そうね。お互いの朝練が被る金曜日しか無理ね。」
「乗せてもらう気満々じゃねえか。運動部なんだから走れよ。」
「いいじゃん、週に一日くらい。じゃあね。」
「あ、ちょっと待って。」
テニス部の朝練へ向かおうとする佐和子を呼び止める。
「これ母さんが。」
「え!お弁当?うわ〜嬉しい!おばさんにお礼言わなきゃ。今夜行くね。」
「おう。」
ありがと〜!と手を振りながら笑顔で走り去る佐和子を見送り、自転車を停めに駐輪場へ向かう。
すると、後ろから背中を叩かれる。
「おっす〜宮田。」
「はよ。」
同級生で同じバレー部の瀬川だった。
「お前、何?倉田さんと付き合ってんの?朝からチャリふたり乗りなんかして。」
「ねーよ。ただの幼なじみだよ。」
「なんだよ〜ビビった。だってよ、まだ入学して一か月も経ってないのに、倉田さんは早くも男子の人気ナンバーワンだぜ。」
そうなのだ。佐和子、もとい倉田佐和子は、昔から男子の間で噂になる人間だった。
ぱっちりの二重、長いまつげ、さらりと軽く揺れる髪、長い手足。整っている見た目は男子に限らず、女子からも注目を浴びるほどだ。
「見た目はな。中身はそんなに可愛くねーよ。」
「なんだそれ。見た目が可愛けりゃなんでもいいだろがよ。」
瀬川のように言う男もまあ、中学の頃からたくさん見てきた。あいつの中身を知って、離れていく男も。
自転車に鍵をかけて、瀬川とともに部室棟へと向かった。
俺の自転車の鍵に付いている犬のキーホルダーは、昔ゲーセンで佐和子が取って「要らないからカズにあげる」と言って渡してきたものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます