アレスの丘(2000)

Nemoto Ryusho

清則無念



斥候兵が帰ってきた。どうやらこの先に浅倉の兵が待ちかまえているらしい。清則はため息をついた。

空には清則をからかうかのように紋白蝶がひらひらと舞っている。

「やはり見破られていたか。」清則はかすかにつぶやく。

 天の頂に昇りつつある太陽がさんさんと清則達を照りつける。



清則は今回の戦にいささか気乗りはしなかった。それがたとえ三国殿の命令であるとしてもだ。三国殿の父金津殿が亡くなり三国殿が後を継いでから、戦の目的が変わってきていたのである。


先日の軍議での決定にはいまだ納得はしていない。


ましか丸は初陣に心はやらせているようだ。


浅倉の兵を見た瞬間清則はため息をつく。


ましか丸はまだ若い。

確かに父である自分よりはるかに才能にあふれている。

だが、それでも父に及ばないのだ。


清則の命で一斉に清則勢は怒声をあげる。


意外なことに農兵達は崩れなかった。それどころか清則達目掛けて攻めかかってくるではないか。

「これはしてやられた。」清則はそう思った。


農兵達は皆勢いがある。


ましか丸は相も変わらず次々と農兵を倒していく。


「無理をするな、ましか丸。」

そう言うと清則は岩佐にましか丸を助けに行くよう指示する。


突然、一人の若いの農兵が清則に向かって飛びかかってきた。


ましか丸もこの農兵を率いていた男をしとめたようだ。


「怪我したものの手当てをしてやれ。後は野営の用意だ。そしてすまんが余ったものでわしと一緒にましか丸を探すのを手伝ってくれ。」


林を奥深く入っていく。


一人の農兵が震えてうずくまっていた。

「怖がらなくてもいい。実は・・・


清則がそう言った途端、男は刀で清則に切りかかった。

「しまった。」そう思うやいなや清則の目は闇で覆われる。

ただ、我が子ましか丸のことを暗示ながら。

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