第2話 ドキドキのオペラ座の夜
ブランドの側との打ち合わせが、始まった。挨拶して、名刺の交換はパリでも。
リモートとは、やはり受ける印象は違う。
こちらが、写真撮影場所の候補を、モニターで見せていく。
場所が出ると、このバッグを全員で指差すが、意見は一致しない。
行ったり来たりしながら、最後にあの路面電車の場所で撮影した、彼女の写真が出た。
コレに、ここにバッグはコレなら、最高じゃないですか?と英語と、片言のフランス語で話した。
一瞬の沈黙はあったけど、拍手があり、サンプルのモデルを、彼女に頼みたい話、ギャラの話は二百ユーロで、即決した。
彼女の服が気になってたから、アパレルの人に声をかけて、今日のドレス候補を見せて貰った。
ネイビーか黒か。
あまり露出が無いほうが良いか?
丈は長いなら、演奏会で使えるか?とか色々と考えた。
結果、黒のシンプルな形で、胸元が華やかなドレスにして、ヒールのシルバーのサンダルにした。
少し気持ちは落ち着いた。
他は、バッグが優先。
決めてから、服装を考えることに。
あの路面電車の場所は、バッグは赤か、グリーンかで揉めていた。
俺は赤の大型のトートを、足元近くに置いて、コレ!って言うと、決まった。
他はピンクやグリーン.黄色の原色系は、アパートやら、公園とか。
パステルカラーのバッグは、カフェとか。
他の小物の、財布やキーケースも、色を揃えて撮影することに。
パステルカラー系には、合わせたスカーフを、テーブルに置いたり。
原色のバッグには、持ち手に巻いたり、色々考えた。
背景とバッグが決まって、洋服の合わせに取り掛かる前に、ランチになった。
一旦近くのカフェで、ランチにして頭をクリアにした。
森口君はフランス語が話せるから、スタッフとは、気軽に話している。
アパレルの社員さんが、隣だったので、彼女にも似合って、背景とバッグに合う、洋服をもう1度選んで貰えないか?と頼んだ。
正直、ブランドが勧めた商品は、パッとしない。
日本の女子が、欲しがりそうに無い感じがする。
このモデルの子は、日本の感覚は無いかもしれないけど、皆んなが可愛いと思いそうな物は、担当者や俺よりはわかりそうな気がした。
そう話すと、なら色々渡すから、着たの以外は戻してくれるなら、他にも色々持ってくると言う話に。
どうせ貰えるなら、彼女にも似合う物、着たいと思える物にしてあげたかった。
そこでふと思いついた。
背景に基本はバッグは写っているけど、他の色や形のバッグとも、差し替えられるようにしたくなった。
アプリ開発に、お金はかかるけど、好きな背景に、自分と好きなバッグが選べるのは、多分ウケそうだ。
より、背景のパリが魅力的で無いと.成立しなくなるけど。
フランス人たちは、予算について話し始めた。
会社に戻るころには、だいたい纏まり、上司へ伝えに行った。
金額によるが、大筋ではOKだった。
アパレルは、たくさんのラックがまた来た。
必要無さそうな物を、選分ける。
普段はスタイリストさんがやる仕事だけど、今回はプレゼン用だから、カメラマンと相談するしか無い。
背景映えも、モデルに似合うかも、彼はわかっている。
日本でウケそうに無いのを、排除するは俺がやるしか無い。
日本人に合わない、好まれない色合わせなんかも。
結果三枚の写真のために、20コーディネートぐらいを借りた。
後は、彼女に決めて貰う。
プレゼン背景は、あの路面電車と、テラスと、カフェにした。
なら、朝一で森口君のアパートで撮影だから、今晩か明日の晩には、泊まって貰うしか無い。
さっそく彼女に連絡したら、
「オペラのほうが遅くなるから、泊まるなら、今夜にします。準備して、夕方に出ます」と来た。
あの子と、オペラ?考えたら、ドキドキするけど、仕事が終わらないと、行けないから、集中するしか無い。
全ての案が決まり、貸し出し品を確認して、貰う物は貰う書類にサインして、終わったら、ちょうど5時過ぎだった。
オペラの話になった。
マーケティングの責任者は、奥様と一緒に行くらしく。
「向こうで会いましょう」と、サッサと帰った。
俺も、森口君の車に荷物を全部運び、今日のドレスだけは、最後に手持ちにして、車に乗り込んだ。
夕方のラッシュはあるが、近いから、それほど時間はかからなかった。
彼女に、「会社を出たから、三十分以内には着く。部屋番号は五〇八」と送った。
「承知しました」と返信があり。
急いで部屋へ向かった。
六時半過ぎだ。
何か食べる時間はあるか?と心配になった。
彼女は直ぐに来た。
チャイムが鳴った。
「着替えてる間は、外に出てようか?」と言うと、
「バスルームで着替えられそうなら、私がそこで着替えます」と言った。
ほぼ初対面に近いので、お互いに気まづいが、仕方ない。
しばらくして、ドレスを着て彼女が出て来た。
「靴を貰えますか?長いから、引きづって、転びそうなので」と、笑った。
「ごめん。コレ!」と箱から、出して足元に置いた。
ヒールは八センチ以上ある。
コレだと、俺より身長が低い男だと、見下ろすことになるな、と思った。
「このドレスは誰が選んだんですか?」
「俺が選んだけど。ダメ?嫌いだった?」と言うと
「いえ。形が母が作ってくれたドレスそっくりな感じで。装飾は違いますが、黒のドレスがそっくりで」と、恥ずかしそうだった。
「なら、持ってるのと被った?悪かったなぁ」と言うと、
「生地なんかは、全然違うから、飾りも素敵だし。母がこの形が似合うって作ってくれたから、似合うと思う形が同じなんだなぁって」髪を直してながら、響ちゃんは、そう言った。
「カバンは、必要な物だけ、こっちのバッグに入れて」と。クラッチだけど、ショルダーも付いた、大きめのバッグを渡した。
「アレ?意外にたくさん入りますね〜」と、あれこれ入れたり出したりしてる。
俺は蝶ネクタイを結びに、バスルームへ入った。
部屋は暗くてよく見えない。
「羽織る物が必要?」と言う、アパレルスタッフの気遣いに、感謝した。
部屋は暖かいけど、こんな姿でウロウロはさせたくは無い。
綺麗な赤のストールを、持たせてくれた。値札はピックリの。千ユーロ、十万近い商品だった。
ストールなら、わざわざクロークに預け無くて良いから、早く帰れる。
何とかニ人の準備が出来た。
さっきルームサービスで、頼んだクロック・ムッシューがある。
「ひとくち食べない?」と聞いたら、ハンカチを出して、衿元に挟んで、一切れ食べた。俺も1切れ。残った一切れを半分に分けて、水で流し込んだ。
もう七時半を過ぎた。
すぐそこだけど、タクシーに乗るしか無い。
フロントに電話して、タクシーを呼ぼうとしたら、英語がイマイチ通じなあ。
彼女が渡せと合図して、ちゃんと伝えくれた。
「十分以内に来るから、降りて待っててって言われました」と。
ならばと、持ち物を点検して、彼女の荷物は明日朝届けることにして、エレベーターへ向かった。
「マダム?水野?」と聞かれて、タクシーに乗り込んで、五分。
まだまだ人は、入っている。
席は多分マーケティングのご夫婦と近い?
探しながら入ると、彼らは座っていた。
挨拶をした。
「彼女がモデルの子か?」と、フランス式のキスハグをしている。ずっとフランス語で話しるから、内容はわからない。
ダンナの隣に彼女で、反対に俺。
「カルメンは、実は一部分だけ、昔村人役とかで、出たことがあるから、内容はよく知ってるんです」そう言って笑った。
「なら、観なくて良かったか?ごめん」と言うと、
「プロのは初めて観ます。ウィーンで『魔笛』は観たけど」と。
「なら、誘って良かった?」
「良かったです。歓迎。こんな素敵なドレスで、素敵な席で観られて、幸せです」と微笑んだ。
周りからはどう見られてるんだろう?と急に気になった。
親子?はありそう。
若い女に入れ上げてる親父?それもありそうだ。
でも、この笑顔の隣の席で、人気の演目が見られる。ラッキー!やっぱり良いこともあるもんた、とニヤケてきた。
彼女はブランドの人に、ドレスを褒められたのか、見せている様子。
俺に後で、「どこのブランド?って聞かれたから、はあ?ってなりました」と教えてくれた。
「答えは?」と聞いたら、
「モッブス!って言うと、目玉回してましたよ」と、楽しげに笑った。
カルメンは悲恋の物語ぐらいは、知っている。が、ホセはよくいる馬鹿野郎ではある。
婚約者って言うのが、ミソ。結婚してないから、平気で他へ目移りする。結婚しても、目移りするのは、経験済みだけど。が、女のために、身を落としていく男は、好きでやってると感じる。
本当に大切なら、誘惑されても離さないはず、本気にならないはず。ミカエラに本気じゃ無いのが、おじさんになると、よくわかる。
最後にカルメンを殺すとか、逆恨みか?とも。自分が蒔いた種なのに。が、男はカルメンには、本気だったは、わかるから切ない。
このオペラはフランス語だから、会場内は沸いたり、シーンとしたり、反応が面白い。言葉がわからないから、共感は低めだったけど。
彼女はセリフに、笑ったりしてる。ブランドのご夫婦も。
誰も幸せになれない話は、終わったら切なくはなる。皆んな少しそんな表情だった。
ギリギリに入ったから、見損ねていた、天井の絵を観に行った。こっそりガルニエに入り込んで観た。有名なシャガールの絵。
彼女は呟いた。
「ママに見せてあげたかった」と。
「昔、2人で私が高校生時代に来たんです。パリに、が、私は試験に落ちて落ち込んで、どこにも出かけずにいたら、ここだけは行きたいと、母が言ってたオペラ座だけ、バレエ公園があり、中が見られずにいて、外から恨めしげに観た。
母に見せてあげられなかったのは、私のせいだし、私が帰りたいだろうからって、七年しても、母はお金が無いしって、遊びに来ないんですよ」そう言って、ちょっと潤んだ目をした。
切ない目だった。俺とじゃなく、ニ人で見せてあげたかった。
ここで、自撮りをした。
彼女は、ドレスは写るけど、顔は半分になる形で。
「SNS苦手なんで」
若いのに、そんな子だった。が、ブランドのためには、撮らない訳にはいかない。
悩んだ結果、顔を横にずらして撮った。
警備員に捕まりそうになった。
彼女は「フランス語が出来ないから、ごめんなさい」的なことを、初心者ぶって、おじさんに、話して無事に帰れた。
お腹も減ったから、カフェへ行くしか無い。オペラ座近くは、どうも満席だから、森口君に電話したら、近くのあのカフェは、十二時まで開いてるから、大丈夫です、と言った。
Uberを呼んで、ニ人で乗った。
カフェレストランは空いていた。
彼女はグラタン的な物を、僕は赤ワイン煮込みを頼んだ、牛の。
さて、そろそろ話さないといけない、と心に決めた。
彼女は明日以降、仕事をしてくれるだろうか?
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