第17話 揺れる想い

朝の台所に立つ母の背中を見ながら、昨夜の光景が頭を離れなかった。

父に抱かれて、あんなふうに声を洩らしていた母──。

私はその姿を知ってしまった。

味噌汁の湯気を見つめながら、思い切って声を出した。


「……お母さん、昨日は……久しぶりだったんだよね?」

母の手が一瞬止まり、振り返る。


「ええ。そうね」

穏やかな声。

でも頬が少し赤い。

私は胸の鼓動を抑えきれず、さらに問いを重ねた。


「そういうのって……女の人にとって、大事なことなの?」

母は箸を置き、わずかに目を伏せた。


「……彩花には、まだ早い話よ」

そう答える声が、かえって私の中のざわめきを強くした。

私は唇を噛みしめ、少し視線を逸らしたまま言った。


「……ねえ。もし、昔の友達のことを……

まだ気にしてるとしたら、変かな」

母は驚いたようにこちらを見つめた。

私は慌てて笑ってごまかす。


「好きっていうより……目で追っちゃう感じ。

……そんなの、ある?」

母はすぐには答えなかった。

その沈黙が、余計に胸を締めつける。


──翔太。

口に出せなかった名前が、心の中で静かに揺れていた。

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