煙解(えんかい)


 自室での自殺であった。


 しかも焼死だった…父に聞かされた曾祖父を固執していたと言われる女と同じ末路を辿ってしまった…。


 しかも自室は改築されていて、防壁に囲まれ恰もそこで自殺すると言っているように、露骨な防災対策がなされていたという。


 母にその事を聞こうにも憔悴している上に、葬式後は私も大変ながら母の代わりに対応していた為、悲しんでる暇も全く起きず、葬式を終えた頃には母は精神的な影響で一時期寝たっきりになってしまったりと大変な思いをしてしまった…。


 ただ…その後、私に異変が起きた…いや、元に戻ったと言った方が良いかもしれない…。


 プライベートで遠出してもケムリが出てこなくなったのだ…。


 それは父が亡くなって少し経ったある日、寝たきりだった母が起き出し、葬式以降も実家に帰れずアパートで過ごしていた私の所にやって来て、私がアパートに住み始めた数日間の事を聞かされた。


 父の言動が私に打ち明けた日の以降、ずっと女を巻き込んでやる…と呟いていたと思ったら、急に自室を防壁に改築して、死ぬ数日前に母にこう言ったそうだ。


 「お前と共に生涯を添い遂げられなくて申し訳ないと思っている…本当は私で終わらせるべきだったんだ…と息子の苦悩している姿を見て後悔している…だから私が責任を持たなければならない。私が曾祖父…いや、俺の代々の因縁を絶たせる。それで息子が治るかは分からない…が、そうしなければならないと思っている。今後の息子の後を任せたい…が、お前も辛い思いをする事になるからお互いに協力しあってくれ…遺産も残してあるからそれで補ってくれ。お前は少しの間旅行に行っててほしい。その間に俺は実行する…本当に迷惑掛けて済まん。」と…。


 俺もそれを聞いて、数日間母と同じく寝込んでしまった。


 もう何が何やら分からない。


 なんでこんな事になったんだと…。


 確かに遠出出来ず、苦しかったのは事実だ…。


 だが、父がいなくなる位なら私は告げなければよかったのではないか…と。


 だけど父は…何故女と同じ死に方をしたのだろうか…。


 女も焼死し、父も焼死していた…。


 自らを焼く…自らを…煙にする…。


 自らが煙になる事で…女を縛ってくれたのかもしれない。


 それとも…偶々治る時期が被っただけかもしれない。


 私はこの一件以降、現実と非現実の境を彷徨っているといっても過言では無い。


 母は、こうなる事を知っていたのか…覚悟が出来ていたのかは分からないが少しづつ精神的に回復している様にも見える。


 私は…未だに心にモヤが掛かっている。


 煙は消えても…また別の…見えないケムリが私を覆っている。


 父は私を救いたかったのだろうが…私はまだ救われてはいない。


 ケムリが纏わりついている…。


 そのケムリは父のケムリか…女のケムリか…。


 それ以降、最後まで…見えぬケムリに怯え、縛られるかの様に…私はその土地を出ることはなかった。


 


 

 


 


 


 


 

 

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