この想いが、いつか群星へ
@Nisitsukiamane
夢の死骸
――僕は白木真冬は、誰よりも熱いものを持ったロマンチストだった。
幼い頃から、星空の奥にある見えない何かを追いかけるのが好きだった。
いつか、あの無数の光の中に僕だけの星を見つけるんだと、夢中で夜空を見上げていた。
でも、今の僕は違う。
あれほど熱かった気持ちは、静かに冷え、固まってしまった。
夢を失ったわけじゃない。けれど、夢を握りしめる勇気がなくなっただけだ。
現実を選んだ方が「正しい」と思い込もうとする自分が、胸の中にずっと張り付いて離れない。
(僕は、いつからこんなに冷たくなったんだろう……)
冬の空気はひどく澄んでいて、呼吸をするたびに胸の奥まで突き刺さるような冷たさがあった。
河川敷を歩く足元で、砂利がザクッ、ザクッと音を立てる。その音さえ、耳の奥に重く響く。
イヤホンから流れる静かなピアノの旋律が、むしろ逆に僕の心の奥にある淀みを鮮明に照らすようだった。
風が吹き抜け、マフラーの隙間から首筋を冷たく撫でていく。
首をすくめ、無意識に空を見上げた。
半月が、僕を見下ろすように淡い光を注いでいる。
僕の時計の針は、十を指していた。
「……よかった、しばらくは天気も崩れそうにない」
声に出した自分の言葉は、冷たい空気に触れてすぐに白い息になり、やがて消えた。
――こんなふうに夜を歩くのは、もう習慣のようになっていた。
気づけば僕は公園に着いていた。
星がよく見える高台にある、公園の古いベンチ。
僕はココアを自販機で買ったあと、そこに腰を下ろし、空を見上げる。
(またここに来てしまった……)
別に、この場所が特別好きなわけじゃない。
でも、いつも決まってここに辿り着いてしまう。
進路、夢、未来――全部が怖くてたまらなくなると、ここに来て星を見上げるしかなくなる。
(進路……決めなきゃいけないんだよな)
文系か理系か。
あと少しで訪れる冬休みの間に決めろ、と親に言われていた。
簡単なはずだった。昔なら、理系を即答していた。
だけど、今の僕は夢を捨てかけている。
子供の頃のように無邪気に「宇宙に行きたい」「星を見たい」と言えない自分が、情けなくて仕方なかった。
(……星のこと、あんなに好きだったのに)
それでも僕は、ゆっくりと夜空を仰ぐ。
無数の星たちが、そこにある。
どの星も、自分の光を淡々と放ち続けている。
(僕は、何をしているんだろう……)
まるで、自分だけが時間の中に取り残されているような感覚があった。
いつの間にか冷たい空気に、手が痛むほど冷えている。
ポケットから出したココアの空き缶は、もうぬるくなっていた。
(……寒い)
小さく声を出すと、涙が喉の奥に溜まる感覚がした。
どうしようもない孤独感が、胸を締め付ける。
親に言わないといけない「文系に進む」という言葉が、喉に引っかかって離れない。
(言えば、全部終わる。現実的な未来が決まる。なのに、どうしても言えない……)
目の前の景色が滲む。
知らずに手が震えているのを見て、ようやく自分が泣いていることに気づいた。
「……やっぱり、僕は……」
そのとき、後ろから小さく砂利を踏む音が聞こえた。
振り返ると、薄暗い公園の入口に人影があった。
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