第3話 それは始まりに過ぎない。
連絡を受けて、すぐに多くのパトカーが現場に到着する。
黒い塊は家から出て、パトカーに群がっていた。
「たすけぇてぇえええ」
パトカーの脇には黒い塊に襲われる警察官の姿。
すでに大量のゴキブリに襲われているという連絡を受けている為、駆け付けた警察官達は殺虫剤やゴキブリを叩き殺す為の蠅叩きなどを持参していた。
ゴキブリに集られていた警察官に殺虫剤が掛けられる。
それでゴキブリは逃げ出した。
そして、蠅叩きで次々にゴキブリを叩き殺す。
無数とも言える数のゴキブリだが、所詮はゴキブリ。
多くの警察官が夢中に蠅叩きで叩き殺すと、恐れて、家へと戻っていく。
集られた警察官の体は無残にも彼方此方が齧られ、酷い有様であった。
すぐに救急車で病院へと運ばれる。
その様子を見ていた警察官の一人は狼狽した。
「あれは本当にゴキブリなのか?制服とかも齧られていたぞ」
彼の言う通り、被害を受けた警察官の制服なども齧られ、ボロボロになっていた。
その光景はゴキブリに襲われたと言うより、野犬の群れにでも襲われたようであった。
その日、集められた警察官達はゴキブリの群れに恐れつつも、事件現場となる家の捜索を始めた。
最初にゴキブリを駆除する燻煙剤方式の殺虫剤を投入した。
煙が家の中を十分に満たした後、蠅叩きや殺虫剤を手にした捜査員が中に入る。
無数のゴキブリの死骸が至る場所に転がっていた。
それはあまりにも凄惨な光景であったが、それ以上にゴキブリに襲われたと思われる被害者達の姿に彼らは驚く。
白骨化、または骨が見える程に損壊した遺体。
どれもゴキブリに齧られたとは思えない姿だった。
「ゴキブリって、何でも食べるイメージはあったが・・・こんなことが」
誰もが恐怖するに十分な光景であった。
だが、それでもこの無数のゴキブリの死骸から、ほとんどが駆除が出来たと彼らは思っていた。それほどに家の中には死骸だらけだったのである。
人間を食らうゴキブリ
この見出しが新聞や週刊誌、テレビなどに連日、踊る。
昆虫学者などは概ね、否定的ではあったが、相当に興味があったのだろう。警察などに研究機関からの問い合わせが殺到した。
警察もあまりの事態に捜査が進まず、専門家を入れての捜査が検討されていた。
現場で採取されたゴキブリの死骸は国内外問わず、研究機関に送られた。
それらが研究された結果、驚くべきことが判明した。
ゴキブリと言っても世界的に4000種余り存在している。
ゴキブリは3億年前から存在が確認され、尚且つ、その形を色濃く残す種である。
繁殖力が高く、飢餓への耐性があり、雑食性の高さから、繁栄を続けている。
今回、死骸から確認された事は、まずはチャバネゴキブリである事。顎が異様に多く発達し、その後の歯列帯も発達している。体内からは肉片が確認され、肉食であると確認された。
従来のチャバネゴキブリでは考えられない事だが、完全に肉食化したゴキブリへと進化したと思われる。一匹が摂取する量はそう多くは無く、一匹に齧られても人間へのダメージは掠り傷程度だと思われる。だが、それは一匹だけの場合であり、集団で襲撃をしてきた場合、人一人を殺すのに必要な数は数百匹程度だと考えられた。
つまり、今回のように群れで襲うのは確実に獲物を仕留めるためであり、集団行動というのも従来のゴキブリでは見られない部分であった。
しかしながら、それらは憶測で、死骸から確認された事項はあくまでも人の肉を食らうというだけであった。
この事から、生態調査が必要だとされ、廃墟への専門家による本格的調査が始まる事になった。
ゴキブリの研究は多くの研究機関で行われている。
古来からの種であると同時に害虫でもあるため、民間での研究も盛んであった。
大手殺虫剤メーカーの研究所にも依頼があった。
そこで研究主任を務める大橋学は上司に呼ばれ、助手と共に現場での調査に加わるように命じられる。
人を食らうゴキブリ。
今後の事を考えてもとても興味ある内容だった。
この研究所にも死骸はすでに配られており、確かにこれまでのチャバネゴキブリとは大きく違っていた。奴らは進化したのだ。
生きている人や動物を襲って、食らう。
これまでとは明らかに違う獰猛さ。
放置すれば、今後、大きな被害が発生するのは明らかだった。
このセンセーショナルな事件は世界でも大きく報道され、一部では水際作戦として、日本からの輸入の規制が始まった。
大橋は助手の水無弥生を引き連れて、会社のワゴン車に調査機材を積み込み、指定された集合場所へと向かった。
GOD 三八式物書機 @Mpochi
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