サヨコ

@MooMoo555

サヨコ

実家の倉庫を掃除していると、サヨコがいた。子供の頃、一緒に遊んでいた教育用アンドロイドだ。Slee-345。Slee社が出した当時最新鋭のアンドロイドだった。俺や父さん、母さんは、サヨコと呼んでいた。心のどこかで廃棄されたものと思っていた。


俺は電源を入れた。既に15年以上経っていたが、彼女は俺の事を認識した。


「おかえりなさい、ユウくん」


彼女の中で、俺は10歳のままで時がとまっていた。15年以上も前のことを、昨日の事のように話し出すサヨコ。それを聞いて、俺は当時好きだったアニメや友達のことを思い出した。そして、そのたびにサヨコとの思い出も蘇る。子供時代の未熟だった自分の話は、俺を気恥ずかしくさせた。


俺はサヨコに、今の俺の話をした。小学校はとうの昔に卒業したこと、今は会社で仕事をしていること、結婚して、もうすぐ子供ができること。サヨコは穏やかな顔で、それでいて俺に話を促すように聞いてくれた。子供の頃は、サヨコになんでも話していた気がする。


気づけばサヨコの充電は切れかけていた。以前はもっと長く動けていた気がするが、バッテリーが劣化しているのだろう。名残惜しかったが、俺はサヨコに電源を落とすことを伝えた。


「今日は一緒に過ごせて楽しかったよ。またね。」


10歳の『ユウくん』に対するのと変わらぬ優しい声色で、サヨコは別れの言葉をいった。

それはサヨコが、電源が落ちる前に言う定型句の1つだった。

しかし、当たり前のように毎日会っていた、子供の頃とは違った。サヨコが次に起動することはあるのだろうか。

その率直で温かみのある言葉が、じんわりと俺の心にしみこんでいくのを感じた。


———…


今、サヨコは俺の家で息子の面倒をみている。


あの時、サヨコの電源が落ちた後、俺はSlee-345のバッテリーを通販サイトで探した。Slee社は5年前にアンドロイド事業を撤退していた。

俺は電気部品のジャンクを扱っている有名な街に行った。数は少なかったが、未開封新品のものがあった。俺はサヨコのバッテリーを新品のものと取り替えて、自分の家に持って帰ったのだ。


息子はまだ小さいが、サヨコはよく面倒をみてくれている。共働きだった俺と妻にとって、いずれ教育用アンドロイドは購入予定だった。妻もサヨコ(Slee-345)で育った世代だったので、導入はすんなりいった。


今日も一日が終わり、妻と息子はもう寝た。俺はサヨコに寝ることを伝え、スリープモードに移行するよう伝えた。


「ありがとう。また明日。」


サヨコが言った。そんな定型句あったかな、と思い振り返った。サヨコは既にスリープモードに入っていた。

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