第40話:ラスボスを倒した

 深見はつまらなさそうに俺を見る。

 あるいは俺の目に映る自分を見ているのではないだろうかと思うほど、俺の目を見続けていた。


「……あの、男の人同士で盛り上がるのやめません?」

「あ、ごめん。……ふう、大食いは俺の勝ちだな」


 深見が食べた量よりも俺が食べた量の方が明らかに多い。俺は勝ち誇ると、クイナはニコニコと俺に言う。


「では勝利したヤクさんには……私の手作りのワッフルをプレゼントです! ジャジャーン!」

「食った後にまた食わされるのか……」


 焦げたワッフルの上に不恰好に崩れたソフトクリームとかけすぎているチョコソースと菓子のスプレー。

 不器用だなぁと俺が笑うと、深見は俺を見て不貞腐れたように言う。


「……実際どうするつもりなんだよ。お前らの望みの世界なんてもうどこにもないぞ」

「まぁ適当に農業とか試してみるかなぁ。……飢え死にはしたくないし」

「……この辺りなら水産資源の方がオススメだ。物流が死ぬから魚の乱獲はなくなり、数年で水産資源は大きく改善されるだろう。お前なら死の危険もないしな。あと、農作物は人に荒らされるぞ」

「あー、そりゃそうか」


 俺達の話を聞いて総理は苦々しい表情を浮かべる。

 日本が終わるのを当然の前提として話しているのは内閣の長としては複雑な気分なのだろう。


「……私は、国民を信じる。未曾有の事態ではあろうが、それでも誰もが理性的に動けば建て直せるはずだ」


 ……無理だろうな。と思いながらクイナが焼いたワッフルを食べる。

 食いすぎてちょっと苦しくなってきたな。


「美味しいですか?」

「ああ、美味いよ。……けど、これ、食べ放題の時間内に食い切るのか……」

「あ、もうそろそろ時間か。……おい、ヘドロ。王様ゲームはしないのか? クジなら作ってきたけど」


 俺は深見の持っている数字の書かれた割り箸をへし折る。


「ああっ!?」

「彼女がいる中でそんなのさせるわけないだろ……。というか子供相手にそんなのしたがるなよ」

「いやだって組織の中だと出来ないし、王様ゲームみたいなの」

「そりゃそうだろ……。というか、そういうことがしたいなら世界をめちゃくちゃにするなよ……」

「駆け込み需要的なのあるじゃん? あ、二件目いくか?」


 マジでコイツやだ……。


「行かねえよ……。あー、いや、総理はいくか」

「ああ、この機会に話せることは話しておこうかと思っている」


 流石に二人を残していくわけにもいかないので俺も行くとして……柳と山田は送らないとな。

 愛知を呼ぶか。平林はこっちの監視を続けたいだろうしな。


 会計を済ませて、柳と山田を愛知に預けてから近くのバーに入る。今度は総理と深見を二人にさせて、俺とクイナは少し離れたところに座る。


「……深見さん、普通に総理大臣と話をしてますね。てっきり楽しい遊びは終わったから帰るものかと」

「アイツの考えはよく分からん」

「んー、まぁ普通に世界が終わる前に偉い人といっちょ話しておくかみたいな感じかと。滅亡エンジョイ勢ですし」

「クソみたいな勢力だ」


 まぁそんなもんか……。

 珍しい機会だから乗っとくかぐらいで深い考えはないのかもしれない。


「クイナはこれからどうしたい?」

「んー、自警団にいるんじゃないです? ならだいたい平林さんが決めるかと」

「自警団も仲間の意見ぐらい聞くだろ。自警団の方針に従うにせよ、クイナの意見は必要だ」


 クイナは「んー」と言ってから、オレンジジュースに口を付ける。


「正直、本当に世界がめちゃくちゃになるのとか、よく分からないです。あまり頭よくないので。……もう学校行かなくて済むなら嬉しいなってぐらいで」

「……まぁ、そうだよな。よく分からないか」

「そもそも平和エアプですからね」


 深見と総理が世界の行末の話をしていて、通じないと分かりつつも説得し合っているのに対して……こちらは揉めることもなくむしろ意見をもらいたがりながら自分達の話をする。


 情けないぐらいの差だとは思うが、意見を戦わせるみたいなのは愛知に任せたらいいか。


「……本当に世界が変わるんですね」

「そうだな。……嫌か?」

「都合はいいです。社会というよく分からないところに出なくて済みますし、勉強もせずに済みます。何より、ヤクさんと結ばれることも邪魔されなくなりますから。……なんて、言ってみます」


 場酔いだろうか、クイナはいつものわちゃわちゃとした鬱陶しいクソガキの様子はなくなって、『師走川クイナ』を演じていない彼女が顔を覗かせる。


 ……クイナは案外気を遣うやつだ。

 そもそものところとして師走川クイナのクソガキっぷりは、たぶん演技である。


 愛知や真中や拝島や平林。

 彼らと仲良くするには、素の性格……鬱々としていて、落ち込みやすい人格だと気を遣わせてしまうから、『気を遣わなくてもいい年下の性格』として師走川クイナはクソガキを演じている。


 サンタクロースがいないことを知っていても親が純粋な子供を望むからサンタクロースを信じてるフリをするように、友達と離れるのが嫌なんて当然のことを思っていても中学受験をしたいと言うように。


 自警団では悪友みたいな関係の方が望まれていたから彼女はそういう性格を演じている。


「……ヤクさんは……もし、私が何とかしてって言ったら全部解決出来ますか?」

「…………答えたくないな」

「なんでですか? ……出来るから、出来てしまうから、そのトリガーを私に引かせるのが嫌だからでしょうか」

「どうかな。まぁ……普通にやりたくないからってのが大きいかもな」


 普通に……割とどうにでもなると思う。

 本気で能力をぶん回せば……やれるだろうな、見かけだけ元の世界は。


 実態としては俺が元の世界を強制する俺の独裁になるだけだ。


「……なんで聞いたんだ?」

「んー、困らせて見たかったからかもです」

「お前なぁ。……まぁそうかもな。ちょっと自分の影響とかそういうのを深く考えすぎていた。肩の力を抜くか……」


 俺は深見の方を見る。


「深見」

「ん? どうした? やっぱり仲間になりたいとかか?」

「お前の異能。使えないようにしといたから」

「……は?」


 深見の表情は固まり、俺は食い過ぎで腹が痛くなりながらも深見に視線を向ける。


「深見、強い異能の力に頼らず、自分の力でやってみろよ。それでも何とかなるなら、それもまた民意のひとつだろ」


 欠伸をしてから立ち上がる。


「クイナ、帰るぞ」

「えっ、いいんですか?」

「異能力が使えないから大丈夫だろ」

「いや、帰るのもそうですけど……実質ラスボス倒しちゃってますけどいいんですか!?」

「まぁ……いいだろ。みんな好き勝手してるんだし、俺もちょっとぐらい」


 固まっている深見をおいて、俺はクイナとふたりで店を出る。

 うん、なんかむちゃくちゃをやってちょっとスッキリした。

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