第17話

その知らせは、まるで落雷のように訪れた。

エマが、自ら警察署の扉を開けて入ってきたのだ。

署内の空気が一瞬で張り詰める。

ダニエルも署長も、椅子から半ば立ち上がったまま動けなかった。

エマは無言で署長のデスクへ歩み寄る。その視線は、机上に広げられた一枚の写真に吸い寄せられていた。

震える指先が、写真の隅に触れる。

そこに写っていたのは、若い頃の女性――エマの母に違いなかった。

やわらかな眼差し、面影はエマ自身のそれと重なり、まるで時間が逆流したかのようだった。

「……エマ、それは……」

ダニエルが言いかけたが、声が途中で途切れた。

エマは顔を上げ、深い悲しみを湛えた瞳で彼を見た。

「どうして……母の写真がここにあるの? 何が起きてるの、ダニエルさん?」

署長が口を開く。驚きは隠せなかったが、その声には冷静さが戻っていた。

「これはトムさんから送られてきたものです。私とダニエルは、あなたの父親についての手がかりを探していました。そして、この写真はその糸口になるかもしれないのです」

エマは涙を指で拭い、静かに椅子に腰を下ろした。

「私は……孤児としてアメリカで育ちました。でも……あの大男が――私の父だと……そう言ったのです。母は……どうなったのですか?」

ダニエルがゆっくりと言葉を選んだ。

「正直に言うと、私たちも多くを知っているわけではありません。彼があなたの父だと分かったのも、つい最近のことです」

署長が重く続ける。

「申し上げにくいのですが……あなたの母親は西側の工作員だったらしい。東側にいたあなたの父と結ばれ、あなたを産んだ……そういう経緯があったようです」

「……ああ、お父さん……お母さん……!」

エマの声は悲鳴に近かった。

「なぜ……私なんかを産んだの? なぜ……こんなに多くの人を不幸にしてしまったの? なぜ……お父さんはまた姿を消さなければならなかったの?」

ダニエルはそっと彼女の手を握りしめた。

「エマ……必ず真相を突き止める。そして君を安全な場所に戻す。これは約束だ」

「でも……私の父は、今どこに?」

その瞳は、痛みと切なさに満ちていた。

署長は息を整え、低い声で答えた。

「東側のスパイたちは、彼への復讐を固く決意しているはずです。間もなく何かしらの行動を起こすでしょうが、それが公然か、秘密裏かは分からない……」

ダニエルが言葉を継ぐ。

「だが、彼は屈しない。君に父親だと告げた以上、最後まで戦い抜くだろう」

署長の声がさらに硬くなる。

「ただ……私たちは警察です。この街ラウデンと市民を守らねばならない。申し訳ないが、彼は大量殺人の罪で拘束され、裁かれなければならない。それが法であり、この国の正義です」

「犯罪組織としては、東側も同じだ」ダニエルが返す。「彼らも捕らえなければ、モンタリアはいつまでも『スパイ天国』のままだ」

エマは長く黙った後、かすかにうなずいた。

「……仕方がないことです。父が生きている限り、私は希望を失いません」

ダニエルは彼女の肩に手を置き、まっすぐに見つめた。

「必ず見つけ出して、君を再び父と会わせる」

エマはその視線を受け止め、わずかに微笑んだ。

「ありがとう、ダニエルさん……信じています」

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