「ベックスさん、ゆっくりしてください！私は...はぁ... 追い付けません...」

「それでかまわない。もし止まって捕まったら、おとりになっていい」。

「ベックスさん、あなたはとても残酷です！」

「この先にエレベーターがある。そこにたどり着けないなら、自分でなんとかしろ！」。

「ええっ！？」

ヤミと僕は看守の鍵を使ってなんとか独房を脱出した。結局、呪いを使うことになったが、この状況では仕方がない。幸いなことに、ヤミの呪いは接触した対象をゆっくりと移動させることができるが、その代償として自分の機動力が落ちてしまう。

にもかかわらず、エレベーターまでたどり着いた。ヤミはエレベーターのドアが閉まる前にギリギリ間に合ってラッキーだった。 本当は彼女がついてきてくれないほうがよかった。

まあ、少なくとも彼女は役に立たないわけではない。

「ちょっと息が...はぁ...」

「大丈夫、ゆっくりしていって」。

彼女の喘ぎ声はうるさいけど、自分で考える時間を与えてくれるほど静かだ。

このエレベーターは今まで見たことのないものだ。ある種の半透明の有機物でできていて、脳以外の部分（おそらくエンドリの頭の内部）を見ることができる。また、伝統的な床はなく、デジタルな脳の図のようなものがある。エンドリの脳の各部分は、独立した「フロア」として輪郭が描かれている。特定のエリアが目を引く。

「よし、気分が良くなりました。ベックスさん、どこへ行くんですか？」

「海馬に行くんだ。調べたいことがあるんだ」。

「でもベックスさん、出口を探したほうがいいのではありませんか？このままでは細胞人になってしまうのではありませんか？」

「論理的には、次に変身するのはあなたです。あなたの後に到着した」。

「えー、なんでそんなこと言うの？今すぐに出発する必要があります！」

「その呪いの影響を受ける前に出発する。確か、海馬には長期記憶が保存されているはずだ。機会があるうちに、エンドリの記憶を見ておきたいんだ」。

何しろ、きっと自分に有利になる情報があるはずだから。貴族は秘密をたくさん持っている。今度、いつこんな機会があるかわからない。

「ダメです! とても卑猥なことですので、それはできません！」

「何でもしたいことはできる。ここを出る方法を知らないから、海馬の誰かに聞けばいい！それに、本当に気になることはないんですか？あなたたちメイドは、いろんなことを知らされているんでしょう？」

「まあ...そうですけど...」

彼女の表情を見ていると、躊躇しているようだが、心は本当にそれを望んでいる。ただ、彼女を説得するにはもう少し必要だ。

「ちょっと覗くだけ。このことは誰にも言わない」。

「仕方ないですね。この緊急事態の情報不足のためには、急停車するのが論理的だし、成功の可能性を高めることになります」

「その通りです」。

____________________________________________________________________________________________________________

間もなくエンドリの海馬に到着した。扉はゼラチンのように伸び、その向こうに潜在的な秘密の約束の地が広がっていた。

内部はまるで図書館のようだ。赤橙色の細胞たちが図書館のあちこちを歩き回り、さまざまな本を調べたり置いたりしている。図書館らしく、平和で静かな雰囲気だ。エンドリで一番好きな場所だ。

「ベックスさん、不思議ですね。海馬が図書館だとは思いませんでしたが、理にかなっていますね」。

「それが僕の経験だ。とにかく、ここは広すぎるし、迷子になりたくないから、あそこの受付に行くつもりだ」。

「わかりました、ベックスさん、ついていきます」。

受付には、周囲から隔絶された状態でパソコンの画面を見つめている一人の細胞少女がいた。よく見ると、彼女も他のメンバーもエンドリによく似ている。特にこの房は、司書にふさわしい眼鏡をかけている。脳の中にいるのだから、これがエンドリの脳細胞だと考えていいだろう。

「すみません、質問があります」。

「いや、エンドリの白昼夢の再放送を勤務中に見ていたなんて、ボスに言わないでくださいよ！そんなことないです！」

「...?」

なぜか私たちの存在に、彼女はとても驚いていた。すごくストレスがたまっているようだ。

「うーん、何を言っているのかさっぱりわからないけど、隣にいる女性と僕は上司じゃない」。

「ふー、今わかりました！言い過ぎたようで申し訳ない。記憶当番を一人でやらされてから、ずっとイライラしていたんです」。

「察するに、あなたは一人でチームの仕事をこなすことを期待されているのですか？」

「そうです！さらに悪いことに、補助がいるはずだったのに、みんな睡眠当番に呼ばれたんだ。 一日で一番楽なシフトなのに！」

一人で仕事をする方がずっと効率的だと思うけれど、その子のフラストレーションには共感できる。しかし、自分の仕事量をこなすだけでなく、他の人の仕事も背負うことを期待されるのは馬鹿げている。

「おっと、またわめき散らしてしまったようだ。やり直そう。私の名前はアミリア。脳細胞です。エンドリが長期的な記憶を保存し、それを呼び出す手助けをしています。お二人は外国人のようですね？」

「はい。私はヤミと申します。エンドリ様のメイドの一人です」。

「記憶する価値のない人間ですが、僕はベックスです。質問に戻りますが...」

「ちょっと待って、あなたがベックス？あのベックス？」

「僕しか知らないんだ。そうなんだい？」

アミリアは興奮して叫ぶ。彼女のストレスに満ちた態度は消え、喜びをあらわにする。

「信じられない、本当にベックスがここにいるんだ！どうやってここに来たの？」

「説明するには時間がかかりすぎる。エンドリの記憶を見て、大まかなことはわからない？」

「できるけど、この出来事はあまりに最近のことで、短期記憶に記録されているはずだ。すぐにここに転送されると思います。とにかく、あなたが来ることを知っていればよかったのに！」

「なんでそんなに興奮してるんか？エンドリに会ったばかりなのに、彼女の脳細胞が興奮するほど僕を知っているわけがないだろう？」

「最近の有名人のようなものです。エンドリはあなたに対して特別な思いを持っています。だから、彼女の脳細胞として、当然私たちもそう思っています。」

「おい、ヤミ、どういう意味だ？」

「申し訳ありません、ベックスさん...私でさえ混乱しています」。

今、出来事は奇妙な方向に進んでいるが、そんなことはどうでもいい。早く役に立つ記憶を探さないと。

「そうそう、私の邪魔をする前に、君は何かを要求していたね。ごめんね、ふふふ 」

アミリアは舌を出して生意気な笑みを浮かべる。

「大切な思い出を見たいんです...個人的な理由で」

「エンドリの長期記憶は、許可された人間以外には見せられないことになっている。でも、あなたがベックスである以上、エンドリ自身はそれほど気にしていないでしょう。それに、彼らは私のことなど気にしていないのに、なぜ私がポリシーに従うことを気にしなければならないの？」

クリック

アミリアがボタンを押すと、地下階段が現れる。地下室みたいなもの？

「この地下階段を登れば、エンドリの大切な思い出が、良い思い出も悪い思い出も見つかる。私は持ち場を離れるわけにはいかないので、終わったら思い出の本を元の場所に戻してください。脳から離れる準備ができたら、エレベーターの地図にある脳幹に触れてください。急ぐ必要はないんだけど......」

「わかった。そう長くはかからないから、この 「事件 」は忘れられた記憶にすぎないだろう」。

「ああ、女の子の核を安心させる方法を知っているわね。今すぐにでもキスしたいわ！」

アミリアは目を閉じ、唇を尖らせる。こんな馬鹿なことは相手にしない！

「ベックスさん、速やかに地下室に入ったほうがいいと思います。」

「二度も言わなくていい」。