第6話「目的地」
10分待ったが、誰も目を覚まそうとしない。
ふざけんなよお前ら。
なんだコレ。ドッキリ?
ドッキリであってほしいぐらいだわ。
ハルは抜けた腰を使ってなんとか前に行ったのが仇となったか。
あおむけになって気を失っている。
俺はずっと後ろの席にいたからな。
「うぅ…」
運転席の方からうめき声が聞こえる。
この声はメイだ。
「ここは…天国?」
なに言ってんだこいつ。
「はっ!潜水艦を止めないと!」
レバーガチャガチャ
「動かねえよ。もう電源は切れた」
「マジですか!ありがとうございます!」
「うん、電源が切れたから帰れないけどな」
「」
数分後。
俺等は取っ組み合いの喧嘩になっていた。
「なに電源使い切ってんですかコノヤロー!」
「うるせえな!勝手に切れたんだよバカ!」
「あとここどこですか!暗すぎでしょ!」
「深海20kmだよ!」
「」
うん。そうだよね。
そうなるよね。
「…どうすんですか。これ」
「俺達には2つの選択肢がある」
一つは、「まだ伸びているリーダーとハルをおいて外を探索する」
二つ目は、「ここに残る」
「…どうする?」
「これ二択にする意味ありました?」
「いや、かっこよかったから二択にした」
「ダセー」
まあ、一つ目しかないだろうな。
腹をくくった俺達はまだ伸びている二人に電子メッセージを残し、潜水艦を出る準備を整えた。
潜水艦は扉が2重になっているため、乗り込みスペースに水は入ってこない。
1つ目の扉を締め、外につながる扉を開ける前には、防護服の圧力プロテクトシステムを起動するのを忘れない。
扉を開けると水が流れ込んでくるが、体にくくりつけたワイヤーのお陰で流されずにすんだ。
防護スーツの後ろでファン《推進用扇風機》が自動で起動する。
水の中を進むために、このファンは必須アイテムだ。
少し息苦しいが、これでも深海20kmだ。ワガママは言えない。
「ヤバいっすね。少しバッテリーの減りが早いですよ」
トランシーバー越しにくぐもったメイの声が聞こえる。
普段の二倍の圧力がかかってるんだ。充電の減りも二倍に近いだろう。
少し早めに帰ったほうがいい。
防護服はこまめな充電が必要だからな。
俺達は一人一つずつ予備電源に使うチップを持っている。
小さい見た目の中には防護服を通常の環境で10時間は稼働させてくれる程の電気をためておける。
そのチップがあれば、深海20kmのこの環境でも追加で6時間は稼働できるだろう。
俺はふとメイを見た。
「ん?どうかしました?」
金髪のショートがヘルメットの中で揺れる。
少し声が震えている。
未成年だというのに深海20kmにぶち込まれたんだ。
恐怖を感じているかもしれない。
でも、俺は気の利いた言葉の一つも言うことができずなにか返事を探した。
「海の底、暗いな」
咄嗟に出た言葉が暗闇に吸い込まれていく。
「暗いっすね」
ヘッドライトでお互いの顔が認識できるが、文字通り「一寸先は闇」ってやつだ。
ほとんど何も見えない。
「タケル」
「呼び捨てにすんな」
「これ帰れるんですかね」
「わかんねえよ、そんなの」
沈黙が俺等を包む。
「二人は目、覚ましましたかね」
「まだ伸びてんじゃねえの」
「そうっすね」
メイは「ハハ…」と笑った。
気まずい。
「とりあえずどこに向かうかだな。メイ、地図だして」
返事がない。
「メイ?」
トランシーバーを見る。
相手がミュートになっていることを示す赤いランプが、らんらんと光っていた。
「どうした?メイ…」
メイの方を見る。
隣にメイがいない。
ワイヤーをたどると、こちらに背を向けてしゃがんでいるメイを見つけた。
肩を叩くと、メイはこちらに振り返った。
俺はその瞬間、一瞬固まった。
泣いている。
「メイ」
目から大粒の涙を流す仲間を眼の前にして、俺はなんで名前を呼ぶことしかできないんだ。
「メイ、こうなったのはお前のせいじゃない」
ミュートになっているメイの鳴き声や嗚咽は聞こえない。
「別に二人がああなったのも、電源が切れたのも、お前を責める気はない」
涙を拭おうとしたメイの腕がヘルメットにより阻まれ、涙は拭えていなかった。
俺はメイの肩に手を置いた。
…やばい。これ以上何言ったらいいんだ。
「お前のせいじゃない」とか言ってみたけどぶっちゃけこいつのせいなんだよなあ…。
レバー折りやがって。
なんかどんどん腹立ってきたわ。
「おい。充電がもったいない、行くぞ」
「え?今感動シーンじゃないんすか?」
「そういうメタい話をするのは俺だけでいいんだよ」
メイは鼻をすすり、立ち上がった。
「まあ、スッキリしました。あざす」
ケロッとしやがって。
「まあいいわ。地図を出してくれ」
メイが地図を出した。
「世界地図出してどうすんだよ」
「さーせん」
「あ?ちょっとまて」
ここって…
「どうしました?」
「ここの近くには、あれがあるかもしれない。」
「あれってなんすか?」
俺は世界地図を指差した。
「…まさか」
「ああ。はるか昔、海底に沈んだと言われた国」
「ユーラシア大陸の東にあったとかいう…」
「日本だ!」
俺とメイは全く同じタイミングで声を合わせて叫んだ。
メイが開いた地図には、中国の隣には広大な海が書かれているだけであった。
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