第5話「無免許運転」
メイがリーダーからキーカードをもらい、エンジンにかざした。
「安全運転を心がけ、楽しいドライブを! Drive safely and have fun!」
OK。まあ、これから行くのはドライブじゃないけどな。
俺達が乗るはずであった債務者用の潜水艦はもうすでに皆使われてしまったらしく、
残っているのはアビス社の観光事業用の潜水艦だけであった。
俺とハルは後ろの方に座り、リーダーとメイの運転を観察することにした。
事故にあったとき、助かるのは後ろのほうが確率が高い気がしたからだ。
機械音声の後、メイはレバーに手を伸ばす。
ビートルズの軽快な音楽が流れるなか、潜水艦は前進し始めた。
「こっちのレバーがアクセルで…こっちがブレーキ…」
説明書を見ながらレバーを操作するメイを見ているうちに、脳内に走馬灯が流れてきたような気がした。
ぶっちゃけジェットコースターより怖え…。
「違えよ。そっちがアクセル…あれ?今お前が手前に引いてるのって…」
リーダーの顔が少しこわばる。
「はい。ブレーキです。徐々にブレーキを解除していくんですよね?」
「バカヤロー!そっちはアクセルだよ!」
「あっ!すみません!急いでロックをかけなきゃ!」
メイは真ん中のボタンを押した。
「もうロックはかかってんだよ(泣)もっかい押したら解除されるだろ(泣)」
「法定速度ロックを解除しました」
「レバーから手を離せ!」
「わかりました!」
「レバーを下げないでどうすんだよ!下げろ!」
「わかりました!あれ?これ以外に硬いな…」
ガチャガチャ…ボキ。
え?今ボキって…
「リーダー!レバーが折れました!ごめんなさい!」
「死にたくねえ…俺はまだ死にたくねえよ…」
リーダーが天を仰ぎながら泣いた。
窓の外の景色が少しスピードを上げた。
「法定速度オーバー。爆速運転エンジンに切り替えます。」
少しの機械音の後、窓の外にさっきまでなかったジェットのようなものがついているのが見えた。
あっ、ヤバい。これまずいやつだ。
「ちょっと!なにやってんですか!」
ハルがしびれを切らして話しかけた。
むしろよく今まで耐えたな。
「ハル、前に行って様子を見てきてくれ」
「それは無理っす」
「なんで?」
「腰が抜けました」
何を男らしく言ってんだ。この野郎。
そんなことを言っているうちに、潜水艦は急にスピードが上がり、そのまま
「ギュウーーーーーーーン」という空気を割くような音がした。
ガレージの扉が開く。扉の先は暗いトンネルのようになっていると思った瞬間、大量の水がガレージに流れ込んできた。先は海らしい。
ガレージは一気に水で埋まる。
一瞬水に潜水艦が押されたが、潜水艦は負けずにスピードを上げ続け、ものすごいスピードで水を泳ぎ始めた。
俺は思わず椅子に捕まる。
ジェットコースターの方がマシだ…。
加速は止まるところを知らないようで、運転席のメイはとにかくレバーを握り締め(折れた方はどこかへ放り投げた)ていた。
ハルとリーダーは泡を拭き、俺はどうにか窓の外を見つめていた。
珊瑚礁?熱帯魚?いない。
いるのは底なしの静けさと、泡だけだ。
海らしい青はなく、外には吸い込まれそうな黒が広がっていた。
その景色が、「自分は今、深海にいる」という事実を頭に焼き付けた。
潜水艦内部には現在の深さを伝えるパネルがあった。
パネルは5桁まで表示できるようになっている。
観光用の潜水艦はせいぜい数千メートルほどしか潜らないから、こんなに桁数はいらないはずなのにな。
どれどれ…なるほど。20000mか。
20kmね。なかなか深いところに。
うん。
………。
……?
2…20…km?
レアメタルが埋まってんのが、10km。
今俺らがいんのが、20km。
やばくね?
「おおおおおおおおい!メイ!20km下がってるぞ!」
…返事はない。
その時、足元に説明書がひらりと舞った。
「…え?」
メイは泡を吹いて前屈みになっていた。
「おいおいおいおいおいおい」
頭を抱える。やばいやばい。
とにかくレバーを…
「前方に障害物を確認しました。早急にハンドルを左に回してください。」
障害物?まじで?
その時、説明書に目がいく。持ち上げ、俺は舐め回すように読んだ。
〜自動操縦モードへの移行方法〜
レバーを次の手順で操作してください
右、右、左、上、下、下、上、下、左、上、右、下、ボタン2回、右…
だめだ、話にならない。
メイはこれを試そうとしたのだろうか。
「衝突までの予想時間:1分」
カウントダウンが始まる。
こんなことで死にたくない。
最後の飯が深海魚の煮付けなんて…
そこじゃねえわボケ。さっさとこの潜水艦を止めな…
ん?
待て、よく考えたらあのボタンもっかい押せばいいだけじゃね?
俺はボタンを押した。
「法定速度ロックがオンになりました」
急激に潜水艦が速度を落とす。
ブレーキがかかったようだ。
危ない危ない。危うく死ぬところであった。
カウントダウンも残り10秒だったからな。
「速度を30kmでドライブを続けます」
…!
待て待て待て!
止めないとまずいんだよ!
確かに速度は下がっているが、それでももうそこに「障害物」であろう岩のようなものは見えていた。
やばい。ぶつかr…
「燃料が切れました。スリープします」
あれだけ稼働していたエンジンは嘘のように止まった。
潜水艦が進むのをやめ、推進力を無くしたのか、「障害物」を前に潜水艦はゆっくりと沈んでいった。
海底についたのか、「どさっ」という感覚が足元に伝わってきた。
潜水艦のパネルは電源が切れたのか、もう何も映してはくれていない。
他の3人はもうすでに満身創痍である。
それにしても暗い。電気が切れたからな。
仕方なく防護服の胸元についているボタンを押す。
これでヘッドライトがつくはずだ。
急激に目の前が明るくなり、暗さに慣れようとしていた目がしばしばしている。
さて、どうしたもんか。
「クミカ。起きてるか?」
俺はドリルの電源を入れる。
「あ、ご主人、どもー」
相変わらず態度は悪いが、だいぶ改善はされたのではないだろうか。
「なんかここ暗いっすね。ご主人の人生よりは明るいですけどねw」
「大」ポチー
5分後
「すみませんでした」
「よろしい。さて。ここが水深何メートルか知りたい」
「okでーす。えーっとですねー大体25427mですー」
「すげえ深くね?」
「はい、結構深いと思いますー」
まずいな。帰らなければ。
「ご主人、どうするんですか?帰れませんよ?」
「え?なんで?」
「さっき言ってたじゃないですか。電源切れたってw」
………。
【結論】
海底25000mに電源の切れた潜水艦と、同じく電源の切れた仲間たち。
そしているのはムカつくAIだけ。
「…ってこと?」
「そうっすねwドンマイっすw」
…もうこれ最終回じゃだめ?
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