借金一億円の僕が借金取りに恋した結果。
三戸美里
君と永遠に。
銀座の高級寿司屋のカウンターは、柔らかな光に包まれ、静寂が二人を包み込んでいた。
漆塗りの机の上に並ぶ握りたての寿司、微かに漂う醤油の香り。すべてが、まるで時間の流れを止めたかのようだった。
「今日は…どうしても伝えたいことがあります」
彼の声は震え、胸の奥の鼓動が耳にまで響く。
目の前の女性――自分の借金取り――は静かに彼を見つめる。
「…借金の件ですか?」
彼は小さな箱を取り出し、震える手で差し出した。
「違います。これです」
小さな100円ショップの指輪。
「安いけれど、僕の想いは一億円分以上です」
彼女は指輪を手に取り、瞳を細め微笑んだ。
「…なるほど、あなたらしいですね」
「あなたは僕の借金取りで、敵かもしれない。でも僕は、あなたなしでは生きられない。借金も人生も、すべて一緒に背負いたい。結婚してください」
沈黙が部屋を支配した。彼女は一瞬迷ったように眉をひそめ、そして──指輪を口に入れ、笑みを浮かべながら飲み込んでしまった。
「えっ…!?」
彼の声は驚きと困惑で震えた。
その夜、彼女は急激な体調不良に襲われ、救急搬送されるも命を落とす。
病室の白い光の中、彼は冷たくなった手を握り締め、涙で視界が完全に奪われた。
「…君は、僕の全てだったんだ…」
葬儀の日、火葬場で灰になった彼女の遺骨を見つめる。
そして、奇跡的に溶けずに残った小さな指輪を手にした瞬間、彼は嗚咽を抑えられなかった。
顔もぐちゃぐちゃに濡れ、涙で前も見えない。
「君との物語を…僕も一緒に…」
そのまま、彼は指輪を口に入れ、飲み込む。
数時間後、彼もまた命を落とした。
借金一億円の僕が借金取りに恋した結果。 三戸美里 @satoko38
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