BtoRアイスクリーム チェックメイトはバニラ味

さわみずのあん

BtoRアイスクリーム チェックメイトはバニラ味

 B to R。

 地下一階。

 地上一階から三十階。

 そして、屋上。

 B。1。2。3。4。5。6。7。8。9。10。11。12。13。14。15。16。17。18。19。20。21。22。23。24。25。26。27。28。29。30。R。

 の合計32個のボタン。

 いくら押しても、何も反応しないボタン。

 そして、全く開く気配のない。

 開閉扉。


 エレベーターの中に私は閉じ込められていた。


 どうして、ここにいるのか。

 全く分からない。

 目が覚め、気がついたら、ここにいた。

 蒸し蒸しとした暑さが、エレベーター内に立ち込めている。

 八月。

 外は真夏のはず。

 このままでは、死んでしまうと。

 カチャチャカとボタンを連打し。

 どうにか扉を開こうと、隙間に指を差し込んだり。

 けれど、どうにもならなそうで、扉を、どんと殴ったとき。


 べちゃ。


 背後で音がした。

 振り向き、下を向く。

 アイスクリームだった。

 床にアイスクリームが落ちている。

 ジャンピングシャワーだ。

 あのチェーン店の。

 チョコミント味のアイスの中に、パチパチ弾けるキャンディの入った。

 ジャンピングシャワーが落ちていた。


 突然のこと。しばらくぼうっとしていたが。

 気を取り戻し、上を見た。

 エレベーターの天井には、アイスが落ちてくるような、隙間などない。

 もちろん私が脱出できような隙間なども。

 そうこうしているうち。

 暑さでアイスが溶けてくる。

 私は喉が鳴るのを感じた。

 暑さで渇いた喉が、欲している。

 迷うことなく、這いつくばり。

 ジャンピングシャワーに貪り喰らいついた。


 暑い。

 暑い。暑い。

 喉が渇く。

 アイスの甘さで一層、喉が渇く。

 何も、何も、起こらない。

 アイスが落ちてきて、私がそれを食べ。

 そして、何も起こらない。

 真夏のエレベーターに閉じ込められたまま。

 くそっ。あづい。

 暑い暑い。

 喉が渇く。

 なんでも、いいい。

 何か飲むものが。

 疲労で横になる。

 当然視界は、床の上を這う。

 溶けた。液体の。ジャンピングシャワー。

 液体だ。

 匍匐し、温い液体を指ですくい舐める。

 一瞬癒える渇き。

 そして、すぐに来る渇き。

 なにもかも面倒になり、腹這いのまま、ぺちゃぺちゃと床を舐めた。

 全て。舐め終わった時だった。


 べちゃ。


 どこかで音がした。

 音のした方。下の方。

 床には。

 アイスクリーム。

 ストロベリーショートケーキフレーバー。


 そして、

 チンっ。

 エレベーターの階が上がる音。

 B。のスイッチが一瞬光り、消え。

 1。のスイッチが一瞬光り。消えた。


 そして、静寂。

 エレベーターの中に私は閉じ込められたまま。

 けれど、床には、アイスクリーム。

 理解した。

 けれど。

 納得はしなかった。



 ぺちゃぺちゃ。

 べちゃ。 

 ぺちゃぺちゃ。

 べちゃ。 

 ぺちゃぺちゃ。

 べちゃ。 

 ぺちゃぺちゃ。

 べちゃ。 

 ぺちゃぺちゃ。

 べちゃ。。。。。。


 モカマカダミア。

 チェリーブロマンジュ。

 オレンジソルベ。

 クッキアンドクリーム。

 ベリーベリーストロベリー。。。。。。


 1。2。3。4。5。6。。。。。


 這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。這いつくばり舐め。


 這いつくばり舐めた。


 チンっ。

 エレベーターの階が上がる音。

 30。のスイッチが一瞬光り、消え。

 R。のスイッチが一瞬光り。消えた。


 扉が開いた。

 エレベーターの中には、私と。

 バニラアイス。


 外の光が差し込む。

 強く風が吹いている。

 扉を抜けると。Roof。

 ビルの屋上。


 周囲には何もなかった。

 助けを求めることも。

 閉じ込めたやつを探すことも。

 私は、何もしなかった。


 エレベーターの中に戻る。

 もう、扉は閉まらず。開いたまま。

 太陽と風で、バニラアイスは溶け続ける。

 もう。終わり。終わりなんだ。


 三段アイスを持った子供にぶつかり、

 アイスを落としただけなのに。

 幸せの絶頂から、不幸のどん底まで、

 落としただけなのに。


 這いつくばり舐めた。32個のアイスと。

 落とした時の子供の顔を思い出した。

 つみはつまらない。

 チェックメイトはバニラ味つみはつまらない


 そう自己弁護したところで。

 誰も私を許してくれはしない。

 ビルの屋上。

 周囲には何もなかった。


 つまりはそういうことだ。

 私は這いつくばり舐めた。

 チェックメイトのバニラ味を。

 そして、エレベーターから外に出た。


 ビルの屋上。

 周囲には何もなかった。

 本来ならあるはずの、

 安全のための柵までも。


 太陽の傾きから、多分、今は6時ごろ。

 太陽に向かって、私は走り出した。

 口の中はバニラ味。


 屋上から。


 飛び降りる。



 BtoRアイスクリームっスリートゥーワン、私は叫んだ。!。






























べちゃ。

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BtoRアイスクリーム チェックメイトはバニラ味 さわみずのあん @sawamizunoann

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