第7話
「こんにちはー!」
「いらっしゃい」
ひとりずつおばあちゃんに自己紹介をして玄関をくぐった。
「近くに海があるから少し見に行ってみたらどうかしら?」
おばあちゃんの提案で僕たちは荷物を降ろすと海に向かった。
「おー!」
カズが大きな声を出す。
目の前には青を溶いた水が零れたような空と海が広がっていて、この美しい景色にはいつも感動させられる。
海をしばらく眺めてから僕たちは再びおばあちゃんの家の玄関をくぐった。
「ゆっくりしていってね。ところで、今夜はちょうど地域の花火大会があるの。是非行くといいわ。」
夜、僕たちはかき氷をほおばりながら、夜空に次々と咲く色とりどりの大きな花をぼんやりと眺めていた。ふと隣に視線を移すとひかりがカズに耳打ちしているのに気が付いた。何を話しているのだろう。そう思った時二人は急に立ち上がり不自然な笑みを僕たちに向ける。
「ちょっと屋台見てくるね」
そう言って立ち去ってしまった。僕と梢ちゃんは顔を見合わせ、二人して頭にはてなを浮かべた。
花火の上がる音と人々が行き交うざわめきが聞こえる。しかし僕たちだけが静けさの中にいた。少しして僕は口を開いた。
「梢ちゃん」
「ん?」
「楽しい?」
「うん、とっても」
目の前に、空に浮かぶ花よりもずっとずっときれいな笑顔が咲いた。
「喉が乾いたから飲み物を買ってくるよ」
「あ、じゃあ私も」
そういって立ち上がろうとした彼女を制する。
「梢ちゃんの分も買ってくるよ。ラムネでいい?」
「ありがとう。うん、大丈夫」
僕は頷いて、人混みの中に吸い込まれるように歩き出した。
「あおいー」
少し遠くで僕を呼ぶ声が聞こえた。声のする方に顔を向けるとカズとひかりが手を振っていた。
「どうよ?梢ちゃんと二人きりの気分は」
「え?」
カズがよく分からないことを言い出す。
「梢ちゃんのこと好きだろ?」
なぜだろうか。顔が熱くなるのを感じた。
「そんなんじゃないよ」
「うそつけ。耳が赤いぞ」
カズとひかりはニヤニヤと笑う。
「いいから!梢ちゃんのところに戻ろう」
その時、僕は周りがやけに騒がしいことに気が付いた。さっきまでのざわめきとは違う。不穏な香りがした。僕たちが元いた場所に人が集まっている。何かあったのだろうか。さざ波のような不安は次の瞬間、大波となって僕を襲った。
「梢ちゃん!!」
人をかき分け梢ちゃんの元へ走り寄る。
「梢ちゃん!梢ちゃん!誰か救急車!」
目の前には意識を失った梢ちゃんがいた。
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