複数の合成結果の1
嗚呼烏
壊れたと思いを馳せる
目覚めたら、部屋が橙色に染まっていた。
「……頭が痛い。」
本来の就寝には、まだ早かったに違いない。
時計を見ずにも、そう思った。
なぜ、こんな時間に寝たのだろう。
動作的に身体を起こすと、つけられたままのラジオの音が耳に入る。
最近、疲れているのか。
こんなもので疲れるのか、と不満に思いつつも。
疲れる人生が送れているだけ嬉しいか、という言い訳で終わる。
寝起きの手で開けた扉は、重く感じる。
でも、その先に特別なことはない。
「負けた、悔しい。」
妹の和葉の、そんな声が聞こえてきた。
珍しいな。
ゲームは時間がある時にしか、とか言っていたのに。
まあ、いいか。
「今日は、夜ご飯を早く済ませたい。」
前兆もなく、思い出した和葉の声。
「……嗚呼、申し訳ない。」
この情けなさが取り留めのない一日の中にあることに、また情けなくなる。
「……あれ、シャワーの水が止まってない?」
起ききっていない脳には、洗面所に近づくまで分からなかった水の音。
「手のかかる妹だこと。」
寝起きの状態。
お風呂場で転ばないかという心配はありつつ、水の音を止ませに向かう。
「お姉ちゃん、夕方に寝たんだね。」
洗面台には、和葉が居た。
「寝てしまったみたいだ。」
約束を忘れてしまったし、機嫌が悪そう。
「……というより。シャワーを止めなさいよ。」
あれ、さっきまでリビングにいたような。
私が立ち尽くしている時に、目の前を通ったのか。
それだったら、流石に無意識すぎる。
がっかりといらいらの中間の感情に、思わず頬を叩く。
「姉さん、覚えてないの?」
和葉が、呆れた顔で聞いてくる。
「今日は早く夜ご飯済ませたかったのでしょう、それはすまなかった。今はそれより、ほら。シャワー。」
後ろを指先を向けても、和葉は私を見たまま。
さらに、首を傾げている。
シャワーの音じゃないのか。
そもそも、音なんか出ていないのか。
そんな疑問が残る。
「……今日は三十一日、陽気な怪異が人間を観る日。」
和葉の固い雰囲気は、珍しいと思う。
「今日は、三十日だろう?」
今日は日曜日だから。
そう思いながら、カレンダーを見ると。
三十一が、赤く染められていた。
「嘘でしょう……」
いや。
本当に、今日は日曜日だ。
「あれだけ、『十月三十一日の夕方には寝るな。』と言っていたのに。聞いて呆れるよ、お姉ちゃん。」
目を丸くする私に、蔑みというとどめを刺す和葉。
泣きっ面に蜂、とはこのことだ。
「ならば。シャワーの音がするのも、リビングで声が聞こえるのも……」
焦りながらの質問を、自ら止める。
肯定される問いを続けるのを、野暮に感じた。
「もちろん、そうだよ!」
シャワー室から、声がする。
十月三十日。
別の世界線では、ハロウィンという行事らしい。
その世界線には、実際に怪異は居ないらしいが。
こちらには、居る。
その怪異が、人間に悪戯する日が十月三十日なのだ。
対象は、夕方に寝るもの。
夜に寝て、朝に起きて。
健康になってほしい、という願望が強すぎるのだとさ。
対象を見つけた場合は、即座に。
身近な人間の身体を、増やしてしまうらしい。
今、そのらしいが噂ではなくなったがな。
なんで、そんなことをするのか。
理由は、諸説あるが。
一つの身体が死んでも、生きられる。
転じて、強固な生命になるかららしい。
ならば、せめて本人を増やしてほしいものだが。
怪異を理屈で説明できたら、どれだけ楽なことか。
一体、どうしたら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます