S級ダンジョン 1
グージカッソの表門手前の林に、ワープの出口を設置した。
ここからダンジョンまでは、道なりに進めばいい。
上空からざっと周囲を確認。
目立たないよう、あえて林の中を『瞬足』と『空中遊泳』で飛んでいくことにした。
ダンジョンの入り口前は広場になっている。
宿泊所、食事処、武器屋──冒険者向けの建物がずらりと並んでいた。
「ここがダンジョンの入り口ですよ」と言わんばかりの位置に、ギルドの詰所が構えている。
さすが、S級ダンジョンだ。
……でも、入り口に冒険者らしき姿は見当たらない。
今日は休みなのか?
攻略はやってないのか?
それとも、もうS級冒険者たちは中に入ってるのか?
ただ、入り口には見張りの男が一人。
ギルド関係者だとすぐわかる。
……そういえば、S級ダンジョンは入場規制がかかってたっけな……
たぶん、入口で等級チェックがあるはずだ。
よし、『透明被膜』で入っちまおう。
ダンジョンは上に階層があると思っていたが、実際は地下に階層があり、下っていく構造だとわかった。
ダンジョンを外から飛び込んで入るわけにはいかない。
……『透明被膜』、『忍足』、『瞬足』、『隠密』、『凝視』──気配を完全に消すんだ……
透明人間になり、ワープの入口と同じような黒い穴へと潜り込む。
少し気配が漏れたのか、入り口の見張りが一度こちらを振り向いたが、止められることなくダンジョン内部へ入れた。
これでもう、ワープを使えばいつでもダンジョンに入れる。
行けるところまで進んでみよう。
中は洞窟だった。
しばらく歩くと、床が整備されている場所もある。
まるでアトラクションパークのような造りだ。
……魔王が人を呼び込むためのアトラクションパーク、なのか?
数分ほどだろうか、『瞬足』で早歩きしていると魔物の気配を察知した。
『凝視』でオーラをとらえ、レーダーのように位置がわかる。
精霊石ソードを握った。
ファーストコンタクトだ。
……俺もとうとう冒険者の仲間入りってわけか……あの角から……出てくるな……
S級ダンジョンというだけあって、いきなり俺より背の高い魔物の影が現れた。
……なんだよ、スライムとかコボルトじゃないのかよ……
長剣をいつでも抜けるよう、距離を詰める。
「でけー……トカゲか!」
リザードマンだった。
武器を持たず、すばしっこく二足走行で襲いかかってきた。
魔獣との間合いを、自分から詰める。
居合斬り。
……スゥゥゥッ……!
首をはねると、黒い煙になって消えた。
煙が引くと、地面には魔石が落ちている。
……これが魔石か……
ゴルフボールほどの大きさだ。
宝石と呼ぶには程遠い。
黒曜石のような艶のある黒色だが、リザードマンと同じく、緑というか茶色がかった波模様が走っている。
……魔獣の色が反映されるんだな……
魔獣は死ぬと煙になって消え、その核だけが残る。
こんな高級なもので魔獣を造るなんて、ずいぶん贅沢だ。
ましてや、倒しても罪悪感はまったく湧かない。
日々の鍛錬の成果を試すためだけの舞台だった。
初めての収穫なので、アイテムポケットにしまった。
あまり時間をかけて攻略はできない。
今日の目標は、行けるところまで行くことだ。
急ごう。
『凝視』の感知魔法を使い、階層ボスの部屋まで最短距離を割り出す。
ボス部屋らしき空間には、魔力の波動が一点に固まっていた。
簡単な迷路のような構造で、魔獣の気配もいくつか感じられるが、感知上は点のように小さい。
ボス部屋は、まるで靄の塊だ。
これなら迷わず一直線に進める。
『瞬足』を発動し、駆け抜けた。
途中の魔獣は、進路を塞ぐなら斬る。
邪魔しないなら見逃す。
早々に一階層のボス部屋に到着。
待合室とは呼べない、小さなスペースが手前にあり、その奥には石造りの重厚な扉が構えていた。
少し待ったが開かない。
……自分で開けるタイプか……
重量感のある扉を押す。
中は洞窟らしい壁面だが、床は石畳。
……魔獣のステージってわけか……
扉が閉じた瞬間、煙が立ちこめた。
明らかに演出だ。
冒険心や高揚感をあおり、人間をさらに奥へと誘い込む仕掛けだろう。
やがて、さっきのファーストコンタクトの魔物より一回り大きなリザードマンが姿を現した。一匹だ。
……まだ一階層だしな……
瞬殺。
フロア魔獣と同じく、煙となって消える。
……ボスの魔石だけは持って帰ろう……
魔石を拾うと、入り口の反対側の扉がひとりでに開いた。
……出口は自動扉か。早く出ろってことだな……
扉を抜けると、自動で閉まった。
……ふむ、セーブポイントはこういう場所に作ればいいんだな……
そのままフロアを走り抜ける。
まだ二階層だ。
『瞬足』で走り抜ける。
数分でボス部屋に到着。
二階層のボスは一匹、三階層では二匹。
四階層のボスも二匹、五階層で三匹になった。
フロアに現れる魔獣も、下層に進むごとに一匹、二匹と増え、ボス部屋と同じ数になっていく。
ボス部屋、またボス部屋と討伐を重ねる。
途中からは急ぐために、『瞬足』とジャンプを組み合わせ、フロア魔獣をスラロームで避けたり、飛び越えたりすることが多くなった。
八階層のボスは三匹。
九階層からはフロア魔獣の編成が四匹に。
……二の累乗か……倍化する等比数列を使っているんだな……
案の定、十六階層まではフロア魔獣もボス部屋も四匹編成。
しかし十七階層からは五匹になった。
三十二階層まで五匹編成が続き、ボス部屋も同数。
三十三階層で六匹になり、そこから六十四階層まで六匹編成が続く。
俺は一旦、33階層のボス部屋を攻略したあと、出口で休憩を取った。
水とおにぎりを『トリプルワイ』で出現させ、ダンジョンの壁にもたれる。
……ダンジョンを創った魔王が等比数列なんて使うとはな……厄介だ。
知能も相当高いかもしれない……。
ただの魔族のトップじゃない。
このダンジョンも、飛行系魔獣を組み合わせて構築してやがる……。
俺はギルドでもらった初心者用の小冊子を、アイテムポケットから取り出した。
リザードマン、ワイバーン、鳥系の魔獣……グリフォンか……。
ハーピーなんていう翼を持った人型も出てきたな。
虫型の飛行種もいたし、魔法を使う連中も厄介だ。
『火』『水』『風』『土』……というか、汚い液体やネバネバを飛ばしてくるのもいる。
まあ、こっちも属性に反する壁魔法『空間シールド』とバレットで対処はできたが……。
それに、飛行種に混じって二足歩行の牛人間──ミノタウロスか。
デカい奴は……タイタンビーストか。
地上と空中の合わせ技なんて、簡単には攻略させない工夫だ。
……まだまだ新種が出てくるんだろうな……。
確か、このダンジョンは59階層まで攻略済みって、掲示板にも貼ってあったな。
大昔、メリーファの勇者もこのダンジョンを残した理由があるはずだ。
ランダムでS級ダンジョンを休眠させたわけじゃないだろうし……。
もしかして、このダンジョンが面倒くさすぎたのか……?
いや、強すぎて攻略できなかったってんなら、もっと厄介だ。
……まあいい、俺はやるしかないんだ。
よし、頑張っか。
モグモグ……ゴックン。
立ち上がると、俺は再び走り出した。
『凝視』魔法で魔物の気配を探る。
六マンセルというのだろうか……六匹編成の反応が、いくつも頭の中に浮かび上がる。
次のボス部屋も感知済みなので、位置は把握できている。
飛行系魔獣には、空中回転で遠心力をつけ、そのままぶった斬る。
回転の合間に、別の魔獣へ向けてスピッツァー型ダイヤモンドタングステン製、20ミリ×130ミリ──対戦車ライフル級の威力を持つ『ビッグバン・マグナム』を急所めがけてピンポイント射撃。
二匹同時に撃ち抜くことも可能だ。
もちろん、弾丸には『トリプルゼット』の消滅魔法を付与してあるため、ダンジョンに残る痕跡はない。
魔石だけがフロアに転がる。
討伐後に魔石を回収する時間すら惜しく、放置して先を急ぐ。
走る、飛ぶ──スピードは落とさない。
三十四階層、三十五階層、三十六……三十七……と一気に駆け抜ける。
三十八階層でも同じく六マンセルを討伐。
ボス部屋へ向かう途中、次の編成を感知した。
通り抜けられるなら、『瞬足』と『空中遊泳』でスラローム回避するつもりだった。
……ん? オーラの色が違う……
明らかに、これまで『凝視』で感知した魔獣の色ではない。
……冒険者だ……
忍者系スキル『凝視』『隠密』『瞬足』『忍足』『透明被膜』はすでに発動中。
死角となる角度から、細心の注意を払い最大限に気配を消し、冒険者たちを観察する。
六人組。
大きな荷を背負ったポーターがいる……泊まり込みの遠征だろう。
先頭は剣士らしきアタッカー。
盾を構えたタンク、杖を持つ魔導士、そしてヒーラーらしき姿も。
構成は完全には分からないが、装備や所作から見て素人ではない。
すでに何かを察知したパーティーは構えに入っている。
時間は惜しいが、少しだけ冒険者の相手をして実力を確かめてみたい。
般若仮面の登場だ。
流石に人間の服装では通報されかねないので、キツネの毛皮で作ったファー付きジャンプスーツを用意しておいた。
出番だ。
般若の面をかぶり、戦闘モードへ。
……これは犯罪にならないよな……嫌だぞ、犯罪歴1とか……
「来るぞ!」
剣士が声を上げる。
俺はあえて動かない。
剣士、斧使い、弓使い、盾役のタンク、杖を構えた魔導士──ポーターも小ぶりの杖を抜き、三角形の陣形を取っている。
じりじりと距離を詰めてくる。
遠距離担当の弓使いが、炎を付与した矢を放った。
……おっと、矢が曲がったぞ……
続けざまに放たれたアイスバレットもカーブを描き、俺を狙う。
その矢と同時に、前衛部隊が突進してきた。
もう隠れている場合じゃない。
……やるか……
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