第9話

一緒にお風呂に入りながら良介の上に乗って抱きしめると、照れたような困ったような顔で、私のことを抱きしめてくれる。



「……ゆなちゃん、ごめんね」


「え?タクシーの中怖かったやつ?」


「え?そっち?!」



なんでか驚いてる良介に、逆に私も驚く。

他に怖いところあったっけ……。


……まあ、いつもよりテンションが上がっちゃってる良介、カッコかわいかったけど。



「でも、彰人はほんと、そういうんじゃ、」


「まって、やめて!今その名前聞きたくない!」



私の口を覆うように左手で隠し、数秒後、左手をどかしてキスをされた。



「……ちょっと、まじで、真剣に聞いてほしいんですけどね、ゆなさん」


「え?は、はい……」



「ズバリあなた、モテるんですよ」



ちゃぷん、てお風呂に雫が落ちた。

良介がジャグジーのボタンを押すと、大きなお風呂がブクブクし始める。



「モテないよ?良介と付き合ってから、誰からも告白とかされてないもん」


「告白されることが全てじゃないからっ、モテって!

結奈ちゃんは男がメロメローてなっちゃうオーラというか、フェロモンをだしてるの!無意識に!これはそんなことないとかじゃなくて、そうなの!まずこれ分かってほしい!


今までは大学も女性が多かったから、俺はそんなに強く言わなかったけど、これから働くってなったら、男性もいっぱいいるでしょ?


距離感とか、本当に意識的に気をつけてほしいですっ!」



そして私の顔にピシャッて、水をかけてきた。



「それで、あいつね、あの男。


あの男はまじで本当に前から、結奈ちゃんのこと、好きだからっ!

もう、誰が見ても確定だからっ!」


「いや、……えぇー?なんで?」



「男は好きでもない女の子に、まめまめしく連絡できるほど器用じゃないんだよっ!


100歩譲って、付き合いたいまで行ってなくても確実に『アリゾーン』にいるから!


しかも、初めて顔見たけどあいつめっちゃイケメンじゃん!俺、まじで焦ったよ!」


……怒ってたんじゃなくて、焦ってたのか。



「結奈ちゃんにとって、楽しくて大切な場所ってわかってるから、あんまり色々言わないようにするけど。


俺がヤキモチ妬いてるってことは伝えたからね」


「……わかった。


ちなみに、今度バーベキュー誘われてるけど、行かないほうが安心ってことだよね?」



ボコボコっていうお湯の音がお風呂に響く。


良介がお湯の中で私の胸をなぜか触り始めて、気持ちよくて思わず息が漏れた。



「行ってもいいけど、ちゃんと俺のメンタルケアもしてほしい」


「……するっ」


「あと絶対指輪つけていってほしい。

昔あげたネックレスもつけていってほしい。

俺のことスマホの待ち受けにしてほしい。

できるだけ露出してない服着ていってほしい。

前日泣ける映画で号泣して目を腫らして、バッドコンディションで行ってほしい。

それでも可愛いだろうからいっそのこと前日ニンニク大量にたべていってほしい」



私の体を触りながらそう言って、余裕なくなって何度も頷いたら、あはは、って笑ってからぎゅって抱きしめて頬にキスされた。



「うそうそ。指輪だけでいいよ」


「……指輪、なくしたくないからバーベキューとかでつけたくない……」



私も良介の頬に、ちゅ、とキスした。



「今度ちゃんと皆に紹介するね」


「あ、それが本当は一番嬉しい」



嫉妬してる良介もかっこよくて、大好きで、私はこの人がどうなっても、ずっと一緒にいたいなって思えた、夏の終わり。






2025.08.24

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独り占めしたいって言えない俺は 斗花 @touka_lalala

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