カイトの未来

 高校を卒業した天野カイトは、家業を継いだものの将来について悩んでいた。天野家は代々、造園業を営んでいる。

祖父の指導で植木の剪定に関しては自信がついた。どんな庭仕事にも対応できるまで成長していた。

 そしてここ数年で父は、経営を土地や建物の設計や売買にまで広げていた。カイトは、東京へ進出した父の仕事にも携わり、デザインにも興味を持ち自分に何ができるか、何をすべきか……を悩んでいたのだ。

中学生のとき、引きこもりとなった弟のヤマトは高校へは進学せずに、すでに父の会社のデザイン部門を手伝っていた。父はヤマトの才能を見抜いていたのだ。


ヤマトがまだ中学生で引きこもっていたある日、ヤマトの部屋から父の怒鳴り声が聞こえてきたことがあった。

何事かとかけつけると、父はヤマトのスケッチブックを取り上げ顔を真っ赤にして叱っていた。

父が声を荒げることは滅多にない。

部屋には泣き叫ぶヤマトとビリビリに破られた絵が散らかっていた。

その絵は全て一人の少女を描いたものだった。


ヤマトはこの少女に恋をしていたのだ。


父はそのときヤマトを東京へ連れて行こうと決心したのだとカイトは思っている。


こうして瓜二つの兄弟は、違う人生を歩むことになったのだった。


(このまま庭師で終わりたくない……だけど好きな盆栽だけで食べていけるだろうか……今の自分のままじゃまだまだ半人前だ……)


そんなことを考えながらぶらぶらとあてもなく歩いていると、どこからかリズミカルな音が聞こえてきた。

カイトの足は、自然と音のする母校の体育館へと向いていた。


開いた扉から中を覗くとダンス部員たちが練習をしていた。

カイトは気づかれないようにその様子をじっと見ていた。


(あの子だけ輝いて見える……ズバ抜けて上手い……確かあの子は近所の……鈴原さんだ……)


実はカイトは以前、彼女を見かけてかわいい子だなと意識していた。

まさかこんなタイミングで再び意識することになるとは思ってもみなかった。


(そうだ、彼女を題材にして作品を作ってみよう。きっといいものができる)


そのときカイトは盆栽士という仕事に専念する覚悟を決めた。


その後、ダンスの大会にそっと応援に行ったり、練習を見に行ったりと、鈴原舞のことを陰からずっと応援し続けた。


(僕はやがて失明する……そのときまでそっと応援し続けよう……)


カイトが背負った病を受け入れて歩き出す決心をしたのは、鈴原舞の魂の叫びがカイトの心を動かしたからだった。

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