ダンスにかけた青春

 三年前の夏。


ダンス部員、総勢二十二人はみんな手を合わせて神に祈っていた。

残る発表は優勝のみ。

自分たちのダンスがそんなレベルではないことは全員がわかっていたはずなのに、舞たちは一縷の望みをかけ神に祈った。


「優勝は中央第一高等学校」


その瞬間、キャーという悲鳴にも似た歓声がホールに響き渡った。


舞たちの挑戦はあっけなく終わった。


少ない部員なりに構成を考えて全員で戦った。


が、結果は惨敗だった。


涙が止まらなかった。


最後は選ばれなかった他校のみんなとも笑顔でお互いを称え合い、会場を後にした。


みんなで抱き合って泣いたあの日は絶対に忘れない。



そして明日からは、三年生それぞれが第二の青春に向かって歩き出すのだ。


(私は一生、大好きなダンスと歩いてみたい。自分らしくいられる大好きなダンスとともに……)


高校三年生の夏、強い決意を新たに舞は歩き出した。


決して振り返らない。


もう決めたのだ。


信じて前へ進もうとーー



舞は友達が受験勉強をしている間も体育館裏のスペースでダンスの練習をしていた。


その日は、曲に合わせて今の自分を表現するーーという難しさに上手く踊れないでいた。


曲を止めてペットボトルを手にしたとき、建物の陰に一人の男性が立っていることに気がついた。一瞬、目が合った気がした。


(あの人は確か……天野カイト先輩……去年、卒業したはずなのに、どうしてこんなところにいるのかしら……)


舞は気が付かないふりをしてダンスを再開した。


今日はなんだか上手くいかない。


(こんな日もあるよね……)


舞は諦めなかった。

自分に集中して踊り続けた。


そして次の日も、次の日も、カイト先輩はそこにいた。


天野カイトーー


舞の家から歩いて十分ほどにある先輩の家は、この辺りでは有名な大地主だ。

天野家は代々、植木職人でカイト先輩の祖父は腕がいいと評判の職人さんだ。お父さんは東京で、造園から植木の販売まで手広く会社経営していると母から聞いたことがある。


舞とは決して交わることのない人ーー


だが、舞はその瞳に恋をしてしまったのだ。

どこか懐かしい風景が見えるような遠い視線に。


(私を見てるわけじゃない……でももし、私を見てくれているのだとすると……)


舞がそう思えば思うほど勝手に体がうごいてしまう。

ちょっと前のスランプが嘘のように体が勝手に踊っている。


何日も何日も踊り続けるうちに舞の心はカイト先輩でいっぱいになってしまった。


(そうだ。私は先輩のために踊ろう……)


ただ一方通行の恋。


それでもいい。


(私はカイト先輩に恋をしている……あの日あの時、目が合った瞬間から……)

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