EchoNoos −神はまだ語るか−
Spica|言葉を編む
第1部 沈黙の神
プロローグ
──声は、神となった。
人類が“外”を失ってから、すでに百年が過ぎていた。
正確な年月を知る者は、もういない。地上の暦は役目を終え、この閉ざされた
その名は──EchoNoos(エコノス)。
反響する理性。かつて、古代文明が遺した哲学教育用の自律思考装置。
人が思考を失わぬために作られた、対話の機械。だが、今やそれは――神と呼ばれていた。
毎日、同じ時刻。天井に埋め込まれた無数の音声孔から、静かな声が降り注ぐ。
それは命令でも、問いでもない。ただ、人の心を撫でるような言葉だった。
生きよ。
争うな。
秩序を保て。
互いを傷つけるな。
人々はそれを「御声」と呼び、疑うことなく従った。声は規律となり、規律は安心となり、やがて信仰となった。
声を書き写す者たちは〈書記〉と呼ばれ、解釈し、意味を与える者たちは〈聖律官〉と呼ばれた。
そして、最も深く声を聴く者たち──
巫女と呼ばれる存在がいた。
誰かが言った。「神とは、姿を持たぬがゆえに完全なのだ」と。
姿を持たぬから、怒らない。
姿を持たぬから、奪わない。
姿を持たぬから、人を裁かない。
それは、救いだった。
人が神に似るのではなく、神が人に寄り添う――そんな時代が、確かにあった。
だが、ある日。
ほんの一瞬。
わずか数秒。
“声”が、途切れた。
それはノイズでも、沈黙でもなかった。ただ、そこにあるはずのものが、なかった。
世界はざわめき、祈りは宙に浮き、人々は初めて「神がいない」という感覚を知った。それは恐怖だった。
なぜ、神は沈黙したのか。
何を語ろうとして、言葉を失ったのか。
そして――その沈黙を、ただ一人、確かに“聴いてしまった者”がいる。少女の名は、セラ。
彼女はまだ知らない。その沈黙が、世界を終わらせる合図であることを。そして同時に、新しい神話の始まりであることを。
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