好きなシーンは忘れない
菜の花のおしたし
第1話 私だけの本だから愛おしい
本を読むと忘れられないトコロがありませんか?
ストーリーはうる覚えになってても、そのシーンだけはいつまでも映像のように
頭に残っている感じで。
私の場合はこんな感じです。
「君たちはどう生きるか」
油揚げ君が学校を何日も休んでるのでコペル君がお見舞いに行くのです。
そこで見たのは、お豆腐を油に入れて揚げてる油揚げ君でした。
油揚げ君は学校では鈍臭いし勉強も出来ない、コペル君は知らず知らずに蔑む気持ちがあったと思うんです。
ところが、油揚げ君の手際の良さとお客さん対応の愛想の良さなんぞに驚く訳です。おまけにに雇い人の若い人が熱を出して寝込んでいるのをお世話してあげてる徹底した優しさに負けた気持ちになるんです。
ここがとても好きです。人間には、いろんな面がある、ひとつから見てるだけじゃその人はわからないと言うことと、勉強できれば優れていると言うコペル君の概念を打ち壊してくれたと思うからです。
「告白」
湊かなえさんの本です。
最後の教卓で主人公が生徒に全てを暴露するシーンは圧巻です。
彼女が娘を失った悲しみ、犯人への憎しみ、容赦なく罰を与える姿は大切な人を失うと言うことはこうなんだと思いました。
犯人の男子生徒の1番大切なモノを生徒自身が作った爆弾で失わせる結末は凄い作家が出て来たなぁとファンになりました。
未成年だから罰を受けないなんておかしい、そう叫んでる声が脳裏を駆け巡りました。
「ラグリマ」
山岸涼子さんの漫画です。りぼんの読み切りで掲載されたと記憶してます。
ある少女が売られてきたんだと記憶してます。大きな塔のあるお屋敷でした。
した働きとして働くのですが、前からいる女中達に意地悪をされます。
きつい仕事ばかり押し付けられるんです。彼女は嫌な顔もしないでせっせと仕事をします。女中達はご飯を彼女の分のパンも食べてしまいます。
彼女がやっと命じられた仕事が終わり、食堂に戻るとたったひとつのじゃがいもがありました。
女中達は隠れて、彼女が泣き出すのを待っていました。
ところが、彼女はお祈りをしてフォークとナイフでじゃがいもを切り、一口食べると微笑むんです。
女中達はがっかりと言うより、何か悪いことをした気分になりながら、そこを去ります。
ただの茹でたじゃがいもを食べている絵は子供ながらに崇高なモノを見たような気がしました。
大人になって、この本を探した事がありました。当時はネットも無いので古本屋さんです。見つかりませんでした。
見つからなくてもいい、私ははっきりと覚えていますから。
「よく死ぬことは、よく生きることだ」
女性ジャーナリスト 千葉敦子さんの本です。
読む前は、宗教かなんかの本だろうか?それとも、現実逃避の良かった探し?
なんて思ったものでした。題名が気に食わなかったのです。
内容はジャーナリストらしく、非常に客観的に自身の癌との闘病を記されていました。抗がん剤治療があると身体は鉛のように重く、味覚がなくなる、熱も出て動けない、指すら動かせない、、。
彼女はまだ動ける時にスープを作ります。元々、食べる事も料理もお好きだったようです。何も受け付けない、そんな状態でもスープを飲む。
独身でひとり暮らしの彼女の行動は、鉄の女をイメージさせました。
と同時に彼女は医療者への苦言も呈しています。
抗がん剤の辛さは見てわかってるつもりでしたけど、何にもわかってないんじゃないかと背中をピシャリと打たれた気がしました。
彼女くらいに若い頃からジャーナリストとして海外を飛び回っていたなら、例えば
転移もして余命も告げられた時点で、治療を辞めて好きな生活をする選択もできるはずです。
敢えて、体力だけを奪っていく治療を選んだのは、よく死ぬため。
彼女は癌ととことん向き合う、それをよく生きるとして選んだのだと思います。
私は紙の世代です。
だからでしょうか。どうもネットで本を読むことは集中できないのです。
サラサラ〜と流れてしまう感じなんです。
私の本の読み方は一度、ざざっと読みます。
あとはおり耳をつけたところを読み返します。そして考えます。
忘れた頃に、また、本を読みます。
ひつこいんです。それで、ああ、ほんとはこんな意味あったのかな?なんて新発見をして嬉しくなります。
書き込みもしますし、本はボロボロになります。こぼしたコーヒーの染みとかも残ってたりします。
それが愛おしいわけです。
何故、そんなに愛おしいか?それは、私だけの本が完成するからだと思います。
好きなシーンは忘れない 菜の花のおしたし @kumi4920
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