手袋のぬくもり
本屋の前で待っていると、冷たい風が制服の裾を揺らした。
吐いた息は白く、ちらつく雪に紛れて消えた。
やがて街灯の向こうから、先輩が小走りでやって来る。
短く揺れる髪が光を受け、白い頬を際立たせていた。
「待った?」
差し出された紙袋には、使い古した参考書が入っていた。
「もう使わないから。役立てて」「ありがとうございます」
さらに小さな包みを取り出して、少し照れたように笑う。
「あとこれ。もうすぐバレンタインでしょ?あげる相手いないのも寂しいから、後輩に」
袋の中のチョコを見て、胸が高鳴る。
「ほんとは明人くんのイメージ的にはオオカミが良かったんだけど、無くって。強そうだからライオン」
ただの冗談だとわかっているのに、その言葉の一つひとつが特別に思えてしまう。
二人で歩き出す。公園までの道のり、他愛もない話を交わした。
昔、生徒会で忙しそうだったこと。
その隣にいつも自分がいて、周りから「会長のSP」とか「ボディガード」と呼ばれていたこと。笑い合いながらも、胸の奥は張り裂けそうだった。
やがて公園のベンチに並んで座る。
吐いた息が白く重なり、沈黙が落ちる。
「俺……ずっと、先輩が好きでした。これがそういう意味じゃないことは、わかってます。でも、遠くに行っちゃうから、どうしても伝えたくて…」
先輩は目を見開き、息をのんだ。少しして、かすかに笑う。
「嬉しい……でもごめんね」
視線を落としたまま、ためらいがちに続ける。
「私のこと好きだったのは、いつから?」「中学からです」短い答えに、吐く息が白く揺れた。
「じゃあ、私が先輩のことで相談してたときも?」「はい」
一瞬だけ表情が揺れて、それから強がるように笑みを作った。
「……辛かったでしょ。ごめんね」
帰り道。別れ際に、ポケットから小さな猫を取り出して差し出す。
街灯に毛並みがかすかに光った。
先輩は驚いたように受け取り、指先でゆっくり撫でる。
やがて顔を上げ、手袋ごしに頬へ触れて微笑んだ。
「……ありがとう」
街灯の下、頬に残ったのは手袋のぬくもりだった。
恋はいつもショートサイズ ブリードくま @trystan530
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