妖怪峠の茶屋で一服
冬灯
前半;穂香の妖怪峠の雨宿り
穂香(ほのか)は、夏休み、自転車の練習で、自分の町と隣町を繋ぐ妖怪坂に来ていた。
時間が経つにつれて、
雲が厚くなり、風が強くなる。
草木が、風でゆらゆらとなびく。
ポツ、ポツリ
空から、大粒の雨たちが、地面を叩きつけてきた。
穂香は、急いで、建物を探し、坂道を上る。
峠に差し掛かったころ、一つの古風な茶屋が見えた。
茶屋は、白の漆喰の壁に、板ぶきの屋根をしている。
かき氷の小さな旗が、屋根の下にぶら下がり、
雨で、濡れ始めている。
入り口のガラスと木の格子の引き戸に、麻でできた藍染のれんが掛かっている。
(こんな所に茶屋なんてあったかな?
でも、雨宿りしないと……)
建物の傍に、自転車を置き、鍵をかける。
扉を叩いて
「ごめんくださ~い。」
穂香は声をかける。
シーン……
(いないのかな?)
と思った、そのとき、建物の奥から微かに
「いらっしゃ~い。」
と声がした。
「失礼します。」
穂香は、そう言って紺色の麻のれんをぐぐった。
穂香が思ったよりも店内は広かった。
奥に広く、しかも暗いので、奥の壁は、よく見えなかった。
「もっと、近くに来ていいよ。」
と声がした。
奥へ進んだ側面の壁の梁には、
横にずらりと、狐のお面、おたふくのお面、天狗のお面などが掛かり、
闇に浮かんでいた。
正面にガラスケースと隣に木の机が、見える。
ケーキを入れる様なガラスのショーケースには、
紺色の色紙を背景として
様々なカタチの細工が飾ってあった。
ふくよかに笑うお雛様とお内裏様は紙の張り子でできていた。
それが、ちょこんと
小さな座布団の上に座っていた。
隣には、飴細工のように
透明なガラス細工の金魚が、
ケース内の照明でキラリキラリと輝いていた。
丸いガラス玉の中には
花のガラス細工が、ゆらりゆらりと浮かび
ぷかぷかと、回っていた。
穂香は、丸いガラス玉に惹かれ、ぽーっとガラスケースを覗いていた。
机の向こうの座布団に座っていた店主が、やって来た。
「どうです?伝統的な手法で作られているんですよ。」
店主は、頭の大きく尖った耳を、丸く丸めた手で、かきかきした。
店主のネコの目が、大きく笑う。
そう、店主は、山猫だった。
山猫は、工芸品の物語を熱く語ってくれた。
妖怪峠の茶屋で一服 冬灯 @Huyuakari56
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