第10話 決戦

「おはよう、颯太くん」

「……」


 俺の挨拶に、琴乃ちゃんの弟くんはプイとそっぽを向くだけ。

 まるで、ばあちゃんの家にいる猫だ。……まあ、シャイなんだろうな。


 決戦の舞台は、休日の賑わいを見せる地元の公園。

 今日は例のガキ大将一派と、俺たち兄妹、そして琴乃ちゃんが集まっている。

 目的はもちろん、ガキ大将と琴乃ちゃん姉弟の因縁に決着をつけるための真剣勝負だ。


「お姉さん、さっさと始めようぜ。俺のモンモンでボコボコにしてやる」

「いけいけ、大井!」

「女なんかに負けんじゃねーぞ!」


 相も変わらず品のない野次が飛ぶ。

 こういう根拠のない自信に満ち溢れたタイプが、高校デビューを果たしてスクールカーストの上位に君臨するのだから、世の中は理不尽だ。

 颯太くんのような物静かな子は、俺と同じ日陰者への道をまっしぐらなのに。


「対戦よろしくお願いします!」

「頑張れ、コトノン! いけいけ、ゴーゴー、コ・ト・ノ・ン!」

「琴乃ちゃん、落ち着いていけよ」


 俺と姫美のエールを受け、琴乃ちゃんは力強く頷き返した。

 その横顔には、以前の不安の色はない。



 そして——対戦開始を告げるBGMが、プレッチから高らかに鳴り響いた。



「いっけー、サメカイゾク!」


 ガキ大将の先発はサメカイゾク。

 強い、かっこいい、そしてレア。

 子供が好む要素をすべて詰め込んだキャラなので納得だ。


「お願いします!」


 ——いけっ プレスチル!


 対する琴乃ちゃんの先発は、物理受けのスペシャリスト、プレスチル。

 物理アタッカーのサメカイゾクに対し、これ以上ない有利対面だ。

 開幕から読みが冴えている。

 場作り用のイガニンジャを先に出した方が無難かもしれないが、一点読みが刺さったので良しとしよう。


 セオリー通りなら、相手はサメカイゾクの不利を悟って、すぐにでも交代するはず。


 ——戻れ プレスチル!

 ——頼んだぞ サルセイジ!


 まずい! 琴乃ちゃん、深読みしすぎだ!

 俺が模擬戦で見せた、相手が交代することを読み、それに有利なモンモンをぶつけようとする

 ネット対戦の強者と練習を重ねすぎたことが、ここでは仇となっている。

 相手は何をしてくるかわからないガキだぞ!


「ばーか! ぶっ潰してやる!」


 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——クリティカルヒット!

 ——サルセイジは 倒れた!


 最悪の幕開けだ。いきなり魔法受けのモンモンを失ってしまった。

 相手の控えに魔法アタッカーが一体でもいれば、こちらの残りのモンモンでは受けきれない。


*************************************


琴乃ちゃん

プレスチル  ■■■■■

サルセイジ  □□□□□

?????  ■■■■■

?????  ■■■■■


クソガキ

サメカイゾク ■■■■■

?????  ■■■■■

?????  ■■■■■

?????  ■■■■■


*************************************


「コトノン、落ち着いて! まだこれからだよ!」

「はい、頑張ります!」


 姫美の激励に、琴乃ちゃんは頷く。

 そうだ、まだ心は折れていない。

 それに、ガキ大将が致命的なプレミを犯す可能性だって十分にある。


 ——いけっ イガニンジャ!


 ひとまず【毬栗撒き】で場を整えるつもりか。悪くない。

 相手のサメカイゾクは積み技を使わずに、愚鈍に攻撃し続けるだけだろうし、隙を与えるリスクはない

 だが、すでにサルセイジを失ったこの状況は、あまりにも不利だ。


 ——イガニンジャの 毬栗撒き!

 ——相手の 周りに 毬栗が撒かれた。

 ——サメカイゾクの ソードスライス!


 ——イガニンジャの 手裏剣投げ!

 ——サメカイゾクの 弱点をついた!

 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——イガニンジャは 倒れた。


 ここから琴乃ちゃんは巻き返せるのだろうか。


 ——コトノは プレスチルを 繰り出した。

 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——プレスチルの カチカチ!

 ——プレスチルの 防御が 上がった。


 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——プレスチルの カチカチ!

 ——プレスチルの 防御が 上がった。


 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——プレスチルの 自己修復!

 ——プレスチルの 体力が 回復した。


「なんだよ、これ? ぜんぜん倒せないぞ?」


 ガキ大将が苛立ちを隠せない。

 受けに徹した戦術など、経験したことがないのだろう。


 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——プレスチルの カチカチ!

 ——プレスチルの 防御が 上がった。


 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——プレスチルの カチカチ!

 ——プレスチルの 防御が 上がった。


 ——サメカイゾクの ソードスライス!

 ——プレスチルの 自己修復!

 ——プレスチルの 体力が 回復した。


「うがーっ! ずりーぞ! ふざけんな!」


 完全に術中にハマっている。

 交代すれば済む話なのに、ムキになって攻撃スキルを連打したせいで、プレスチルの防御力は最大値まで到達してしまった。

 もはや鉄壁の要塞だ。


 ——プレスチルの ボディスラム!

 ——サメカイゾクは 倒れた。


 自身の防御力を攻撃力に換算する【ボディスラム】。

 低火力のプレスチルにとって、これ以上ない相性最高のスキルだ。


*************************************


琴乃ちゃん

プレスチル  ■■■■■

サルセイジ  □□□□□

イガニンジャ □□□□□

?????  ■■■■■


クソガキ

サメカイゾク □□□□□

?????  ■■■■■

?????  ■■■■■

?????  ■■■■■


*************************************


 ——オオイは フレイバードを 繰り出した。


 魔法アタッカーのフレイバード。

 もっと早く出てきていれば勝機はあっただろうが……時すでに遅し。


 ——フレイバードの ファイヤーブラスト!

 ——プレスチルの ボディスラム!

 ——フレイバードは 倒れた。


 限界まで硬くなったプレスチルなら、フレイバード程度の敵はワンパンだ。


 ——オオイは バクキャノンを 繰り出した。

 ——プレスチルの ボディスラム!

 ——バクキャノンは 倒れた。


「ふざけんなよ!!!」

「大井、もうアレ使うしかねえって!」

「わぁってる、わぁってる!」


 

 だが、この盤面を覆せるモンモンなど存在するはずが——


 ——オオイは カンフリューを 繰り出した。


 伝説のモンモン、カンフリュー。

 見た目は中華風のドラゴンで、カンフースーツのようなものを羽織っている。

 目を閉じたまま、オーラを第六感で感じ取って戦うかっこいい設定のモンモンだ。


 本来はルール違反だが、所詮は物理アタッカー。

 弱点を突かれようと、今のプレスチルが倒されるはずがない。

 琴乃ちゃんの勝ちだ。

 俺がそう確信した、その時だった。




 ——カンフリューの 必殺拳法!

 ——一撃だ!

 ——プレスチルは 倒れた。



 

 クソガキたちがウェーイと歓声をあげた。


 そ、そんな馬鹿な……。


 カンフリューは特殊能力の【オーラ読み】でスキルが必中になるので、低確率で相手を一撃にする【必殺拳法】は与えられていないはずだ。

 そんなことが許されれば、ゲームバランスが崩壊してしまう。


「お兄ちゃん、あれって……」

「ああ、だ」


*************************************


琴乃ちゃん

プレスチル  □□□□□

サルセイジ  □□□□□

イガニンジャ □□□□□

?????  ■■■■■


クソガキ

サメカイゾク □□□□□

フレイバード □□□□□

バクキャノン □□□□□

カンフリュー ■■■■■


*************************************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る