末路
……小説の投稿はここで終わっていた。
なんだこの小説は? 俺はこんな文章書いてないぞ。
言霊? 「本当にあった話」にする? 何のことだ?
次の瞬間、スマホに通知が出る。
「非通知着信:たった今」
誰だろう、非通知ってことはオレオレ詐欺だろうか?
俺はスマホの通知を見て戦慄する。
「非通知着信:たった今」
「非通知着信:たった今」
「非通知着信:1分前」
「非通知着信:1分前」
「非通知着信:1分前」
「非通知着信:2分前」
「非通知着信:2分前」
「非通知着信:2分前」
「非通知着信:2分前」
「非通知着信:3分前」
「非通知着信:3分前」
「非通知着信:3分前」
「非通知着信:5分前」
「非通知着信:5分前」
「非通知着信:5分前」
……
既に数十回の「非通知着信」が入っていた。
非通知は鳴らさないようにしていたから気づかなかったのだ。
俺は軽く「ひっ!」と悲鳴にならないうめき声をあげた。
「メリーさんの電話」だ。
嘘のはずの「本当にあった怖い話」が「本当にあった」ことになろうとしている。
そんなバカな! 作り話が本当にあってたまるか!!!
だが、ただの小説の、作り話に過ぎない「本当にあった怖い話」のはずが。
書いたとおりに、現実の出来事として襲い掛かろうとしている!!!
それは「本当にあった怖い話」で発生した恐怖の想念が、本来なら現実の「恐い事物」に吸収されて無化するはずであった恐怖の想念が、小説の嘘のせいで行きどころを無くした恐怖の想念が巻き起こしている。
これらの想念は、本来自らが帰るべき「本当の事物」が存在しないため世界に溢れかえり、帰りどころを作るために「本当にあった怖い話」を「本当にあった」話にしようとしているということだった。
少なくとも「俺が書いた」文章にはそう書かれていた。
いや書いたのは俺じゃない。世の中に溢れかえった恐怖の想念、行きどころを無くし、臨界点に達した恐怖の想念が俺の身体を勝手に乗っ取り、寝ている間にこの文章、この最後通牒を書かせて世界に公開したのだ。
ならどうなる!?
バンバンバン!!!
安アパートのドアをを激しく叩く音がする。
深夜2時半だ、だが「近所迷惑だろ」と思う余裕はなかった。
怖い! こわいこわいこわい!!!
しかしうるさい。怖さと耳障りなドアを殴る音が交互に襲い掛かる。
俺はドアの覗き穴から恐る恐る外を眺める。
じっとりとした濁った眼があった、目は覗き穴から俺を見ていた。
「うわあああああああああああああああああああああ!!!」
悲鳴を上げたはずだ、まるで無響室のように何も響かない!
悲鳴すら上げられない、どこに何も届かない!!!!!
ふとひんやりした感触が足元に走り、視線を下ろす。
床がない。
いや、何かの「影」が床にべったりと貼りついている。
あれ?
まるで自分がしゃがんだかのような感触を受ける。
視点が低い。
まるでしゃがんだかのように。
いや違う。
床の闇に膝まで飲み込まれている。
助けて!!!!!!!
こんなでたらめな話が本当にあってたまるか!!!!!!
フィクションなんだよ!!! 嘘なんだよ!!! でたらめだ!!!
身体は腰まで闇に沈んでいる。
助けて……助けてえええええええええええええええええええええ
あらん限りの悲鳴をあげる、声は虚しく吸い込まれる。
このままだと沈む!
何処か掴むところは!!
俺の手はキッチンを掴むが、握ることができず力が入らない!!!
たす……け……て……
そして、胸が浸かり、首が浸かり、男は闇に沈んでいった。
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