小説の続き
この小説は封印しないといけない。
この小説を絶対世に放ってはいけない。だがもう遅すぎた、この小説は世に放たれてしまった。いや、この小説を放つまでもない、何故ならこの小説は我々からの最後通牒に過ぎないのだ。話を続けよう。
「本当にあった怖い話」というのは所詮はフィクションだ。本当は存在しない。
小説だから当たり前だ、だが「本当にあった」と思う者はいる。
読者だ。
言霊という言葉を知っているだろうか? 言葉に霊力が宿り呪術的な力を持ったものだ。言葉自体が力を持つようになる。古来の日本より起源を持つ歴史のある概念だ。
力を持つ言葉が言霊になるのとは逆に、結果的に「力を持つことになった」言葉も言霊として成立するのだ。それは「本当にあった怖い話」が現実にはフィクションだとしても「怖い話」としての力を持つことを意味する。
「本当にあった怖い話」というのは読者に本当にあったかもしれないという疑念を抱かせる、だからこそ怖さは倍増する。だがそれは小説であり本当には存在しない。つまり読者は「騙されている」わけだが恐怖は存在する。
本来であれば、事物に対する恐怖は語られた事物自体が吸収する。
吸収された恐怖は無となり、それで世界のつり合いは取れている。
だが、小説の「本当にあった怖い話」には語られた実体がない。話を聞いた人間が抱く「怖さ」を受け止めるべき「器」が存在しない。無数の「本当にあった怖い話」から発生した恐怖は行きどころを無くしてさまよっているのだ。
そしてそれは、報いとなって降りかかる。
ありもしない「本当にあった怖い話」話をでっち上げた人物に。
でたらめな「本当にあった怖い話」を本当のものにするために。
そして、この文章はこの男、つまり著者の思い付きではない。
これは我々の言葉なのだ。
世界に溢れかえった、行き場のない恐怖、我々からの「最後通牒」なのだ。
もう世界に「行き場のない恐怖」を受け止められる余地は存在しない。なら溢れた恐怖はどこに行くのか? 簡単だ、「本当にあった怖い話」が「本当にあればいい」のだ。我々は嘘を現実にするのだ。本来帰る場所を、作るために。
その宣戦布告とも言うべき、最後通牒とでも言うべき言葉を、ちょうど今たまたま「本当にあった怖い話」を書いていたこの男の脳内に実らせ、この文章を書かせた。それ故この男は気づかぬうちにこの文章を書き、世に放っているだろう。
そう、気づいているだろうか?
この文章の「作者」は「作者」ではない。
行き場のない「
もう遅い。
お前たちは本当にはない「本当にあった怖い話」を作りすぎた。
行き場を無くした「本当にあった怖い話」の恐怖の想念は溢れかえっている。
これからは「本当にあった話」にするだけの話だ。
<了>
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