6
廃屋の魔女。そう呼ばれる彼女はなんてことない、ただの普通の女の子だった。
女の子というには少々年齢が高いが。21歳だ。
ネピス・ホワイト。それが彼女の名前だった。
「魔女なんて言われてるけどね、あたしはただ普通に生きてきただけよ。普通に。真っ当に生きてきただけ」
魔女というのはこの世界では魔物に近しい、いわば蔑称のような意味合いを持つ。
「ただ、5年前くらいかな。町の皆はあたしに急に冷たくなった。あたしは怖くなったよ。人ってこんなに豹変するんだって。ま、確かにあたしの魔法は普通の人からしたら魔物と同じくらいやばいものだって認識するのは仕方がないのかもしれないけど。でも、それまではあたしの魔法もすごいすごいってみんな褒めてくれてたんだよ?あたしもその魔法をみんなのために使っていた。あたし自身、自分の力を誇りに思っていた」
「一体、何があったんだ」
良い話は聞けないだろうが、ここは聞かないと始まらない。
「あたしのお父さんとお母さんが、殺されたんだ。魔王に。両親は国軍に所属していた。人を守る立派なお仕事。町の皆も二人のことはすごい人だ、いい人だって言っていた。世界って残酷だね。そういう人ほど簡単に死んでいく。あたしは復讐を誓ったよ。必ずあたしが魔王を倒すって。お母さんとお父さんを殺した憎き魔王を殺すって。あたしはそれ以来魔法に打ち込んだ。あたしは剣を使えないからね。やっぱり力をつけるんなら魔法かな?って思って。でも、それが良くなかったんだろうね。町の皆はめきめき力をつけていくあたしを怖がった。あたしはその時はどうして、なんでって不思議に思っていたけど。考えれば当たり前だよね。得体のしれない力は誰だって怖いもの。それに、あたしの魔法、危ないもん。多分簡単に、いともたやすく人を死なせられる。あたしは怖くなった。いつか自分の魔法が暴走したらって考えたら居ても立っても居られなくて、今はこんな森の奥に住んでるってわけ。そしたら、悪名ばっかり広がっちゃって。噂ってのは本人のいないところの方が広がるから。まあでも、その噂のおかげでこうしてあんたと出会えたんなら結果オーライって感じかな」
「じゃあ、仲間になってくれるのか」
「うん、もちろん。あたしがこうなってるのは魔王のせいなんだ。その魔王を倒すためには誰だって利用する。というわけで、よろしくね。勇者様―ライ」
「ああ、よろしく」
とんとん拍子過ぎて展開を呑み込めていない人のために経緯を話しておこう。俺は廃屋の魔女と呼ばれる彼女―ネピス・ホワイトに会いに来た。もちろん仲間にするために。
が、何の道標もない森だ。迷ってしまった。そこで、何となく騒音のする方へ向かってみたところ、ネピスが魔法の練習をしていた。どう話しかけようか迷っていたところ、流れ弾ならぬ流れ魔法が当たってしまって俺は気を失ってしまった。
で、気が付いたらネピスの家にいた。たぶん、介抱してもらっていたのだろう。
その後、自己紹介をしたところ、勇者という単語にやたらと食いついてきた。
それで話を聞いたところ冒頭に続く。って感じだ。
というわけで、3人目の仲間が見つかった。これで、剣士(俺)、僧侶(セリーナ)、魔法使い(ネピス)が現状のパーティとなった。RPGの王道だと、あともう一人ぐらいか。バランス的には肉体派の男だと思うけど、希望を言うなら女がいい。
それはそれとして、仲間となったネピスをセリーナに紹介せねば。勝手に仲間にしてしまったので、説明も兼ねて。
まあでも、結構外は暗いからまた明日かな。今日のところは失礼だけれどこの家に泊まらせてもらおう。
「悪いが、今日はこの家に泊まらせてくれないか。外は暗くなってるし、夜の森は危険だろう」
「別にいいわよ。あ、でもベッドはあたし一人分しかないわよ」
「安心しろ。俺は狭くてもかまわない。なんなら、俺がベッドとなって―」
「『勇者撲滅』」
「ぐほおっ」
突如、後ろから激しい痛みに襲われた。俺は床に叩きつけられる。これは―セリーナの魔法。
「セリーナ、なぜここに」
「なぜかと問われたら、女の勘と答えるのが私です。セクハラセンサーに反応して様子を見に来たら、案の定でしたね。えっと、ネピスさんであってますか?」
「合ってるけど、その……勇者は大丈夫なの?」
「ええ、ギャグパートに入りましたので。ギャグパート中はどんな攻撃でもライさんにしてもいいのです。ネピスさんも魔法の練習台に活用してみてください」
「分かったわ。それで、あなたは?」
「失礼。紹介が遅れました。私はセリーナ・ホープ。不本意ながら勇者パーティの僧侶を務めております。あなたのことは町で聞いてきました。ほとんどは根も葉もない噂のようなものでしたが、やはり噂は噂でしたね。あなたからは邪な気が全く感じられない。僧侶なので分かります。話は途中から聞いていました。では、仲間としてこれからよろしくお願いしますね。ネピスさん」
「うん。よろしく、セリーナ」
「ちょっと待ったあああ。おいセリーナ、人を後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!外道のすることだ。俺が一体何をしたって言うんだ!」
それにギャグパートなら何をしてもいいってなんだよ。ネピスもネピスだ。魔法の練習台になんてなってやるか。下手したら死ぬぞ。
「何をしたっていうか、何かしようとしたから攻撃したまでです。ほんとに見境がありませんね。……ドクダミですか、あなたは」
「誰がドクダミだ。誰が爆発的繁殖力の持ち主で日陰で育つドクダミ科ドクダミ属の多年草だ。ていうかせめて動物で例えてくれ」
勇者をドクダミと揶揄する僧侶が今までいただろうか?いや、いない。断言できる。
「分かりました。機会があれば。さ、ギャグパート終了です。ネピスさんがベッド、私がそこにあるソファ、ライさんが外、これでいいですか?ネピスさん」
「あたしはいいよ」
「……」
俺にも聞けよ。なんで俺だけ外なんだよ。お前が来なかったら俺がソファで解決だったんじゃないのか。
そんなことを言っても結局その晩はセリーナの言う通りになってしまい、俺は外で一夜を過ごした。死ぬかと思ったぜ。いつか語りたい、あの強く優しいクマとの格闘を。一晩にもわたる壮絶な戦いを。(クマは最終的には倒していない。倒す直前にネピスに止められた。ネピスの知り合いクマだったらしい)
そこで気づいたことなんだが、俺はクマと素手で戦えるまでに強くなっていた。
普通ありえない、クマと素手で戦う人間なんているはずもない。
推測の域を出ないが―ほぼ確定だが―勇者パワーってやつだと思う。でないと成り立たない。
正直、俺が戦えるのかどうかずっと不安だったのだ。でも、これで俺が戦えることが分かった。決してセリーナのおかげではなく、あのクマのおかげなのでそこは肝に銘じておくように。セリーナを力の発起人などと思わないように。
何はともあれ、セリーナとネピスは起きて俺の様子を見に来た。二人だけで朝ご飯を食べた後に。セリーナは分かるがネピスも俺に対しての対応が雑だ。
お前もうそこまで来たのか。だとしたら早いよ。
「準備は出来てるか?二人とも」
セリーナは戻るだけだが、ネピスは本格的に引っ越しをすることになる。
勇者となり国軍に所属することになった俺たちは、国王様に家を貰えることになったのだ。既に俺とセリーナが住んでいる。ただ、居心地が良すぎるのかセリーナは教会に帰っていない。それぐらいには快適な家だ(親父さんが悲しそうにしていたが)。部屋が無数にある。
「出来てます」
「出来てるよ。いやあ、意外と荷物少ないんだよね、あたし」
そう言ったネピスの荷物は確かに少なかった。大きめのバッグ一つだけ。
「よし、じゃあ行くか」
「え、何してるの?」
歩き出すとネピスに止められた。何してるの?って何で?
「何って、森を出ないと」
「そんなの、魔法で一発だよ。転移魔法。森を出ればいいの?」
「ちょっと待て、何?お前ってそんなこともできんの?お前って実は未来の青狸だったのか」
セリーナが冷たい視線を送ってくる。気持ちは分かるがこれは言わなければいけない。
「出来るよ。ていうか場所を言ってくれればそこがどこであれ、基本的にはちょちょいのちょいだよ」
まじか。移動が楽になった。待てよ、じゃあ魔王の目の前に急に移動してそこから一発食らわせる、なんてことも―
「あ、さすがに魔王領にはいけないよ。あそこは魔力が乱れているから、位置を掴みずらいんだよね」
理屈は良く分からないが、魔王のところには楽していけないらしい。そりゃそうだ。
とにかく、俺はネピスに俺たちの住む場所を伝えた。地図を片手に持ちながら。
「ふむふむ。じゃあ行くよ。転移の瞬間はぐわんってなるからそこだけ気を付けてね」
「ぐわんってなんだよ。もうちょい説明―」
ぐわん。光に包まれたかと思ったらぐわんってなった。視界が540度変化した感じ。ぐるぐるして、吐きそうだ。見ると、セリーナも気持ち悪そうにしている。
「気持ち悪い気持ち悪い、吐く……」
こんなことを呟くぐらいには。
「あ、ここがあたしの暮らす家か。なるほど確かに、なかなかよろしい家のようで」
と、俺たちをこんな目に遭わせた張本人はそんなことは気にしたそぶりも見せずに家を見ている。あ、入っていった。……置いてくなよ。
―数分後落ち着いてきた俺とセリーナも家の中に入った。
入るとすぐに悲鳴のようなもの、つまりはネピスの叫び声が二階から聞こえてきた。
―待てよ。どうしてネピスは家に入ることができた?鍵は俺とセリーナが持っている。なのにどうして、鍵を開けることなく家に入れた?。
答えは簡単。既に鍵は開いていたから。だとしたら―
「ネピス!大丈夫か!」
俺とセリーナは急いで声のした方へ向かった。扉を開けると、中にはネピスともう一人、いやもう一匹いた。黒猫が。
「おい、どういう状況だ」
「えっと……、何でもないよ」
「何でもないわけないだろ!何もなければお前は突如叫ぶやばい人になるぞ」
「え、それはヤダ」
「じゃあ説明しろ。なんで叫んだ?なんで猫がいる?」
「その問いには僕が答えるにゃ」
どこからか知らない口調の、知らない声が聞こえてきた。
その声の主は―黒猫。
次の更新予定
2026年1月12日 14:00
ウラオモテ~二人の勇者~ 狐月音憑 @azuyayuza
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