夏の終わりと飛行機雲

魔不可

夏の終わりと飛行機雲

「そーゆーもんだ」


「なんとかなる」


この2つの言葉は、私の座右の銘だ。

世界の仕組みを考えていたら、頭が痛くなる。

だから、ぜーんぶ「そーゆーもんだ」って思い込んでる。

もし、真剣に世界の仕組みを問われてもきっと、「なんとかなる」。


夏休みの最終日。

宿題に一切手を付けていなかった。

いつも「なんとかなる」と思って、やっていなかったからだ…。

山積みの宿題に目を背ける。


でも、なぜか不思議に余裕があった。

河原で昼寝しよう。

なぜかそう思った。



久々に外に出た。

太陽の光が、アスファルトの熱気と一緒に肌にじりじりと焼き付くようだった。

普段引きこもってたから、自分はヴァンパイアなのかもしれないと思うほど、外はすごかった。


少しあるって、河原につく。

人は少なく、爽やかな風が心地よい。


ゆっくりと横になり、目を瞑る。

可愛らしい鳥の声、新鮮な緑の香り、全身で感じる草の柔らかさ。

いつもは、家でスマホを見ている時間だけが至福の時だったが、こんな時間も心地よい。



「よぉ!」


元気な声が聞こえる。

私に言ってるのか?


「なんじゃ」

「寝てんの?」

「うん」


彼は、クラスメイトであり、幼馴染。

なにかと気を使わずに話せるから、楽だ。


「宿題終わった?」

「全然?」

「まじ!?数学のセンセ、めっちゃ怖いだろw」

「まあ、なんとかなるさ」

「すげー」

「逆に終わったの?」

「あったりまえ。あ、でも一行日記とかダルいやつはまだ終わってないわ」

「一行日記って、毎日やるものじゃないの?w」

「ダルかったから、やってなかったわ」

「すご」


喋りながら、彼も隣に寝そべる。

青空が眩しくて、でも綺麗で。

隣りにいるのに、上を見ながらお互いに喋る。


「暇なの?」

「んー、まぁって感じ?」

「じゃ、私寝るから邪魔しないで」

「まじか!?宿題終わってないんだろ?」

「まーね」

「『なんとかなる』ってか?まじ、そのスタンス変わらないな」

「すごいだろ」


寝たかったはずなのに、話すのが楽しくて、なかなか途切れない。

真っ青な空を、真っ白な飛行機雲が加わる。


「もし、明日世界崩壊するならどうする?」

「え?宿題やんなくていいからラッキー」

「やばっ!宿題ごときに世界終わらせて良いのか!?」

「そういうアンタはどうなのよ」

「うーん、俺はたぶん、コンビニで一番高いアイスを買うと思う」

「なにそれw」

「やー、コンビニアイスって高いからな…」

「なんか、私と同レベだね」

「なんだとー!?」


日差しがだんだん強くなり、夏の力強さを感じる。

また、ミンミンミンと夏の終わりを嘆くようにセミが合唱している。


「じゃー、俺はこの飛行機雲が消えたら帰るわ」

「ん、なら私もそうするわ」

「あと何分で消えると思う?」

「え?もう消えかかってない?」



その後もどうでもいいような話を永遠と続ける。

何度か話は途切れたけれど、沈黙が苦にならない。

ただ、飛行機雲を二人で見つめているだけで、満たされていた。

楽しくて、この時間がずっと続けばいいな、って思う。


「あ、消えたんじゃね?」

「ほんとだ。…じゃ、帰るか」

「うん」



彼とは帰り道が同じだったから、そのまま一緒に進む。

彼は自電車で来てたみたいだけど、なぜか自電車を押して私の隣を歩く。

別に、さっきみたいに喋るわけではなく、無言でオレンジ色の空の下を歩く。


私の家についた。


「じゃ」

「また明日」


そういって、私は部屋に入る。


うん。今日はトクベツ充実した日を過ごせた気がした。

気分が良く、ふわふわする。






そう、思っていたのに。

母が、鬼になってた。

宿題を、やれと。

どこに行っていたんだと。


ああ、恐ろしや恐ろしや。


叱られながら、宿題の答えを書き写す。

まあ、きっとなんとかなる。


世界なんてそーゆーもんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏の終わりと飛行機雲 魔不可 @216mafuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ