フローライトⅡ

51-koi-

Red DISC

割と初めから、


 チュンチュンと、スズメが鳴く声で目が覚める。薄いカーテンの向こうは、まだ夜が明けたばかりだ。



「モモ、はよー。今日もいい天気だぞ」



 押し入れに頭を突っ込むと、小さくクウーンと返ってくる鳴き声。お前も、今日も元気そうだな。


 振り返ると、机の上に広げたままだったあれこれが目に飛び込んでくる。それに一瞥をくれた後、一つため息を落としてざっと片付けた。



「朝の日課行くか。はぐれんなよ?」


「クウーン!」



 何はともあれ、まずはルーティーンをこなせ。


 考えるのは、それからでいい。




 毎朝の日課は、山の中でのランニング。その間に見つけた、動物たちが今日も元気かどうかの確認も。作った巣箱の中を覗いたり、拾った木の実を置いてやったり持って帰ったり、まあいろいろ。


 強いて言えば、動物中心に回っているかもしれない。それは、今も昔も変わらない。



「クウーン」


「ん? ああ、あれか。ちょっと待ってろ。今良さげなの見つけるから」



 足下に大量に生えているいろんな草をざっと見て、ちょうど良さそうなのを一つ千切らせてもらう。



 ピィ――――……



「……ん。上上じゃねえの」



 それを口に当てながら、寮への道すがら適当に吹いてやる。



『――強くなれ、ヒデ』


「……ん」



 心が和いでいるせいか、肩に乗るフェレットのモモは、瞼を下ろして心地よさそうにしている。反対に山の中にいる小鳥たちは、なんだなんだと興味津々で。朝から元気よく飛び回っていた。



「お。そういや、今年もそろそろか」



 去年と同じところに帰ってきているのであれば。今年もきっといるだろう。






「……何してんだ、こいつ」



 そう思って帰ってきた寮の窓枠に、例の女がもたれかかっていた。少し顔色が悪いような気がするが、でもどこか心地よさそうにしながら、驚くことに眠っている。



「ピイッ」



 頭の上に、親のツバメを乗せながら。



「あー悪い。別にお前らの邪魔するつもりはねえんだよこいつも。それに、あんま体調よくないからさ。今朝のところは許してやって」



 そう言っても、気が立っている親ツバメが女の頭から降りることはなく。まあこんなところで寝たお前が悪いわなと、これ以上止めるようなことはやめておいた。



「……」



 ツバメから意識が逸れると、飛び込んでくるのは包帯だらけの体。以前に比べればその量も少しは減ったが、それも少しだ。少しだけだ。


 あの怪我からして、骨までいっていなかったのは幸いだったが、それでも完治まで至るにはまだかかるだろう。



“――彼女使って、あいつ追い出すぞ。いいか? 大体の作戦は――……”



 ゆるやかな風が、女の前髪を揺らす。以前巻かれていた包帯はなくなっていた。頭の傷はそこまで深くはなかったのだろう。顔も、傷は残ってねえみたいだな。



『ねえ。安直じゃない?』


『まあでも、それが妥当でしょう。それまでと大きく何かが変わるわけではありませんし』


『だろ? てことで、トップバッターはサルに決定』


『は? 何で――』


『『異議なし』』


『おい!』


『なんだかんだで合いそうだし。今回は上手くいくかもな?』


『……。ッ、せめて最後まで文句は言わせろバカヤロウ!』



 その、揺れた彼女の黒い髪に、そっと指を入れる。猫っ毛の髪は、思った以上にやわらかくて。……やさしかった。




「……割と初めから、嫌いじゃねえんだけど」



 悪いのはお前じゃない。お前らじゃない。


 悪いのは全部――……




「……ん」


「……ッ!」



 小さな身動ぎに、弾かれるように手を退ける。起こしたわけではないようだが、何というか。間抜けな顔だな。




「ま、俺も他にやらなきゃいけねえことが山積みだし。まあ程々にさせてもらうわ」



 傷の残っていない彼女の額の生え際を、親指でそっと撫でた。





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2025年12月21日 00:00
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2025年12月22日 00:00

フローライトⅡ 51-koi- @Mizuta_Marino

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