【BDシリーズ】二刀流

ロックホッパー

 

【バランシング・ダンジョン】二刀流

                      -修.


 「ようやく地下30階の酒場にたどり着いたか・・・」

 長かった。このダンジョンRPGは難し過ぎる。地下30階までは各階でクエストをこなしつつ、ソロプレイで辿り着かないといけなかった。始めてから何ヶ月掛かっただろう。そして、酒場でチームを組み、次の地下31階からようやくチーム攻略となる。


 このPRGには復活という概念がない。つまりは、敵にやられて死んでしまうと、経験値も持ち物もすべてクリアされ、地上からリプレイとなってしまう。残るのは自分が習得した勘だけだ。俺も当初1ヶ月ほどは死んでばかりだった。それ以降もちょっとした不注意で死んでしまうことがあった。


 ゲームなんだからネットで情報収集すれば楽勝では?という人もいるだろう。しかし、このRPGはプレイヤーごとにマップが異なるのはもちろん、クエスト内容も異なり、宝の位置も、ラスボスの場所も強さも異なる。さらには、町名や町人の名前、武器や道具の名前まで異なるという念の入りようだ。すなわち他人の情報が全く役に立たないということだ。


 システムも独特だ。持ち物の重量の概念があり、武器や鎧など持ち物が重たいと徐々に筋力はつく一方、体力の消耗が激しくて遠くまで行けないし、体力の低下と共に物理力も魔法力も下がる。食料や薬にも重さがある。いっぱい持っておけば安心というものでもない。スキルは身に着けた武器や盾の種類に応じて戦闘ごとに増えていくが、各階層に設けられた修行場で訓練しないと新たな技は習得できない。一方、強力な技は体力の消費が激しいため、いつも使えるわけでもない。すべてにバランスが求められる。


 そして、いかに生き残るか、これが最大の課題となる。下の階へ続く階段を見つけても安易に下って行かず、その階で十分に経験値を上げ、装備や食料や回復薬を揃え、もう十分だろうと判断できたところでおもむろに下の階へ降りる。各階では、アイテムが落ちていることもあるが、あまり期待はできない。ラスボス討伐の報酬もたいしたことはない。地道にモンスターを倒して金を貯め、強い装備や備品を買う必要がある。さらに面倒くさいのは、戦闘回数に応じて装備が劣化していくということだ。各階のメンテ屋でメンテしてもらわないと、壊れてしまう。


 これはRPGというより、冒険シミュレーターではないかと思えてくる。しかし、この異常なまでのシビアさが何とも言えず、緊張感をもってゲームに没頭できた。


 俺は最初のうちは、片手剣、槍、ナイフ、弓などいろいろな武器を試してみたがどれもしっくりこなかった。階層が深くなった時にも十分敵と戦える武器やスキルを求めた結果、軽めの長剣と短剣の組み合わせが最も有効だろうと判断した。二刀流では、片手で剣を保持し、振り回すための握力と腕力が必要で、獲得には時間が掛かる点が不利だが、慎重にダンジョンを攻略すると、自然に十分な握力と腕力が身に着くので逆に好都合だった。双剣も検討したが、素早い敵には短剣で戦い、強い敵には長剣を振り下ろしつつ横から短剣で刺すといった攻撃もできるため、この二刀流は強さと経済性のバランスが良いと感じていた。慣性力の高い物理攻撃は防ぎきれないが、装備重量が軽い分、素早く逃げることができる。慣れのせいもあるだろうが、地下20階以降は割と楽に進めることができた。


 さて、酒場では各プレイヤーのスキルに応じて、またこの後2時間ほどプレイできそうな候補から、推奨されるチーム編成が掲示されていた。だいたい、剣士や格闘家などの前衛アタッカー、ランサー(槍使い)や魔法剣士などのミドルアタッカー、魔法使いやヒーラー(治癒師)などのサポーターの4、5名で構成されている。また、これまでの戦歴から判断して自動的にリーダーも指定されている。もちろん、誰か気の合わないプレイヤーが居れば参加拒否もできる。


 俺は、今までソロプレイのみで、初めて酒場に来たため他のプレイヤーを避ける理由もなく、推奨通りのチームに入った。他のメンバーも推奨通りで確定したようだ。リーダーは珍しくヒーラーだ。このRPGでは初めてのチーム戦だが、他のRPGでヒーラーがリーダーとなるのはあまり例がない。もとは剣士だったとか、戦略がずば抜けているということだろうか。


 リーダーはメンバーの並び順を決めた。

 「ん、先頭は俺・・・」

 まぁ、確かに二刀流は剣士には違いなく、まあまあ鍛えているとはいうものの、このようなキワモノを先頭に据えるか・・・。二刀流はソロプレイで経済的に生き残る戦略には好都合だが、チームプレイの先頭には、火力の大きい両手剣の剣士とか、破壊力の大きい格闘家、もしくは強力な盾を持ったプロテクターを据えるべきではないだろうか。リーダーがヒーラーなので、二刀流のことをあまり理解していない可能性もある。もし、相手が強力な攻撃を仕掛けてきた場合、真っ先に死ぬことになるのではないだろうか。苦労して地下30階までたどり着いたのに、地下31階で死にたくはないのだが・・・。


 とは言え、リーダーの決定を覆す機能はなく、チーム攻略が始まった。最初は雑魚キャラが多く、二刀流のバランスの良さが有効に働いた。チャットでは、他のプレイヤーから結構な賞賛を浴びることができた。チームは順調にクエスト進め、地下31階のラスボスに辿り着いた。


 そして俺はラスボスの姿を見て絶句した。ラスボスはタコのモンスターだった。4本の足で全体を支え、残り4本の脚にはそれぞれ刀をもっている。四刀流・・・。

 「2本足りないな・・・」

 俺は死を覚悟した。


おしまい

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