第2話 エディとトレミィ

冒険者ギルドの掲示板には、朝からずらりと依頼書が張り出されている。その中で、ひときわ目を引くのは──


冒険者ギルド B級クエスト ゴブリンの盗賊団の討伐


最近、各地で暴れ回っているゴブリンの盗賊団がバロウの森付近で目撃されています。この辺りに根城を構えているようです。討伐成功で報酬は3万G。詳細は裏面をご確認ください。


エディ:「どれどれ……げっ、裏に魔術師がいるのか!」


依頼書の裏面を覗き込んだエディは、顔を渋くさせていた。


依頼書にはゴブリンの盗賊団に人間の魔術師が加わり、強盗の指南役を務めていると記されていた。さらに、その魔術師は必ず生け捕りにしろという厄介な注文付きだった。


エディ:「ゴブどもならいいけど……魔術は苦手なんだよな」


元衛兵のエディにとって、ゴブリンは散々相手にしてきた雑魚だ。しかし、魔術師は話が違う。魔術戦は経験が浅く、ロクな目に遭ったことがない。


エディ:「どうするかなぁ」


天井を仰いでいると、背後を通り過ぎようとしたハーフエルフの少女が、ふいに足を止めた。


少女はエディの顔をちらりと見て、驚いたように目を丸くしている。


エディ:「……ん?なんだね」


エディは眉間に皺を寄せ、警戒する。


トレミィ:「おっちゃん、アーキストの街で衛兵やってなかった?」


悪気なく小首を傾げながら問われ、エディはさらに眉間の皺を深くする。


エディ:「おっちゃん?……失礼なやつだな」


トレミィ:「その顔!やっぱりそうだ!」


トレミィはぱっと顔を輝かせ、確信に満ちた表情で続けた。


トレミィ:「ぼくの顔、覚えてないかな?。」


トレミィは自分の顔を指さす。


エディ:「んー。覚えないな。」


エディは顔をしかめて、顎をさすった。


トレミィ:「ぼくはトレミィ・ランズ。前に、ハーフエルフの、とびっきりの美少女を捕まえたことない?」


自信たっぷりに胸を張る彼女に、エディは真顔で言い放った。


エディ:「おいおい、そんなこと、よく言えるな。自分のことを美少女だなんて。恥ずかしくないのか」


トレミィ:「……いいだろ。別に!」


顔を赤らめ、そっぽを向くトレミィ。


エディ:「トレミィ・ランズ・・か。」


エディは記憶の扉を無理やりこじ開けようとする。埃っぽい路地を駆け回り、ボロボロの服を纏った小さなハーフエルフの少女の姿が鮮明に脳裏に蘇る。


エディ:「ああ……あの時の食い逃げ娘か」


思わず呟くと、トレミィは悪戯っぽく笑った。


トレミィ:「そうだよ!覚えててくれた?」


エディ:「ハーフエルフなんて珍しいからな。君の方こそ、よく俺のことを覚えてたね」


トレミィ:「そりゃあ……ねぇ。あの時、おっちゃんに助けてもらったようなもんだから。」


トレミィは照れくさそうにもじもじする。


エディ:「それで、まだ食い逃げしてるのか」


トレミィ:「もう!やってないよ!」


少し意地悪な笑みを浮かべたエディの問いに、トレミィは頬を膨らませて抗議した。


トレミィ:「あれから、いろいろあってね。いまは、一端の冒険者さ!」


得意げに胸を張るトレミィ。


エディ:「それは、なによりだ」


エディは呆れたような顔から一転、穏やかな笑みを浮かべた。


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