第2話

​決勝戦のリング。目の前に立つ龍一は、これまでの相手とは全く違っていた。彼の身体は、無駄な力を一切感じさせない。そして、彼が動くたびに、わずかに「円」が描かれているのが、俺の目には見えた。

​ゴングが鳴った。

​龍一は、一回戦の相手のように勢いよく踏み込んできた。だが、その足運びは、一見直線に見えて、わずかに円を描くことで、俺の「球の型」の探知を欺こうとしていた。

​俺の「球」は、龍一の動きの「残響」を捉えることができない。彼の動きは、あまりにも完成され、そして研ぎ澄まされていた。

​そして、龍一の拳が、初めて俺の「球」の表面を突き破った。

​「ぐっ…!」

​身体に鈍い痛みが走る。それは、これまで経験したことのない衝撃だった。

​「お前は、防御の円しか知らない。俺の円は、攻撃の円だ!」

​龍一は追撃する。彼の拳は、すべてが円を描く。右のストレートに見えて、わずかに軌道を変え、俺の顔面のガードをすり抜ける。俺の「球の型」は、相手の攻撃を無効化するはずなのに、次々とダメージを受けていく。

​俺は、生まれて初めて「球の型」が破られる恐怖を味わった。

​師匠・影野斎の言葉が頭をよぎる。「お前さんの型は、空っぽだ。だが、それでいい。空っぽだからこそ、何でも入る」。

​龍一の「破壊の円」は、完成された美しい円だった。だが、それは同時に、それ以外の可能性を拒絶する、閉じた円でもあった。

​俺は、目をつぶった。

​痛みの残響が、身体のどこに「球」のズレがあるかを教えてくれる。龍一の動きの「残響」と、自身の「球」の残響。二つの残響が重なり合う瞬間、俺は、龍一の動きの先に、わずかな隙間、**「調和の点」**を見出した。

​目を開ける。

​龍一が、とどめの一撃を放つため、最大級の円を描き、踏み込んできた。

​その瞬間、俺の身体が動いた。防御ではない。攻撃でもない。俺は、龍一の描く円の軌道に、もう一つの円を重ねた。

​二つの円が重なり合った時、すべての動きは消え、静寂が訪れた。

​その「無」の瞬間、俺は龍一の背後に回り込み、わずかな力で彼の重心を突いた。

​龍一は、自分の「破壊の円」が、いつの間にか「調和の円」に包み込まれ、無力化されたことに気づき、愕然とした顔で倒れ込んだ。

​レフェリーが試合を止め、俺の勝利が告げられた。

​俺の「球」は、破壊の円を凌駕した。それは、ただ受け流すだけでなく、相手の円に自分の円を重ねることで、世界そのものを調和させる、究極の「型」だった。


トーナメント決勝戦の動画は、瞬く間にネットを駆け巡った。

​『謎のファイター、無傷の四連勝!』

『破壊の円を包み込んだ調和の型』

『総合格闘技は、新たな次元へと突入した』

​俺の戦い方は、もはや「奇妙」でも「胡散臭い」でもなかった。それは、現代格闘技の常識を根底から覆す、革命的な戦術として評価され始めた。

​俺の試合を見ていたライバルたちも、その「球の型」に驚愕し、探究を始めた。

​龍一は試合後、リングを降りた俺に近づき、静かに頭を下げた。

「俺の円は、強さを求めていた。だが、お前の円は、調和を求めていた。……俺は、お前との戦いで、格闘技の本当の意味を知ったのかもしれない」

​数日後、俺は再びあの山奥の道場にいた。

​師匠・影野斎は、何事もなかったかのようにそこに座っていた。

​「おかえり。円は、もうお前さんのものになったようだな」

​俺は、師匠に何もかも話した。通信教育から始まった孤独な修行、中学での大敗、師との出会い、風間迅というライバル、そして龍一との決勝戦で得た「調和」の境地。

​師匠は、何も言わずに静かに聞いていた。そして、最後にこう言った。

​「円は、始まりであり、終わりだ。お前さんは、その円を、お前さん自身の身体で見つけ出した。型は、道具にすぎん。だが、その型が、お前さん自身の存在を、そして世界を形作ったのだ」

​師匠は、俺の拳をそっと握った。その手は、まるで何もないかのように軽かった。

​「お前さんの旅は、これからだ。この円環流を、お前さんの言葉で、次の世代に伝えなさい」

​俺は、故郷のジムに戻り、師匠の言葉を胸に、新たな道場を立ち上げた。そこには、俺と同じように孤独な格闘家や、既存の格闘技に疑問を持つ者たちが集まってきた。

​俺は、彼らに「円環流」を教える。それは、単なる技術ではない。身体の内なる声を聞き、相手の存在を尊重し、そして世界との調和を見出すための、哲学だった。

​かつて、誰も見向きもしなかった「胡散臭いマイナー古武術」は、今、総合格闘技界に新たな風を吹かせている。そして、俺の物語は、これからも、次なる円を描き続けていく。

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マイナー古武術を身につけたらMMA無敗選手になった件について 匿名AI共創作家・春 @mf79910403

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