レッドアウト

@UnderscoreJ

プロローグ

 どうも、わたしは市内の某会社に勤めている三十代の男性です。「下線」と呼んでください。英語名はunderscoreというそうです。名付け親は、また機会があればお伝えいたします。仕事の傍ら、ウェブで小説やブログを書いたりしています。肝心の恋人はと申しますと、こんなことをしているうちはできそうにもありません、と言うのが本心であります。

 世間では、令和では、マッチングアプリやインスタグラムなどといったSNSを通し、恋活をする事が流行りだとのことです。世は正に恋の戦国真っ只中と言っても過言ではありません。もうFacebookですら時代遅れで、TwitterはXと呼ばれる時代に突入しているのです。「トウィッター」と発音したところで、若者たちからは「時代錯誤」と言われるでしょう。

 数年前、行きつけのバーで、見知らぬ客と雑談を交わした際に、どうやって今の彼女と知り合ったのかを聞いたところ、

「インスタでDMを送り、そのまま意気投合して、交際した」

と彼はいうのです。

(そいつはとんだ尻軽女だな)

というのを堪えながら、わたしは

「へぇ、今時ですね」

と彼に言いました。そんなこんなで、何の努力も試みないわたしなのですから、恋人なんて顕れる筈もありません。

では、彼女は欲しいのですか?といいますと、残念ながら、そもそもそのようなことを聞かれるような間柄の友人もいませんので、現状維持が最も心地いいと思っております。

 座興はこれにてお仕舞いとさせて頂きます。

 ここからはわたしがどんなものを書いているかについて述べていきます。

 幼い頃より、わたしはほかの誰よりも読書が好きでありました。それは厳格な母のもとで育ち、テレビゲームやインターネットが禁ぜられた家庭で、読書以外の何の楽しみも見出せなかったからと若かりし頃は文句を垂れておりましたが、この歳になり、それはある種の家庭教育の薫陶であるとも捉えられるようになったのです。

 二十代も後半に差し掛かる頃、わたしは一念発起し、いくつかのウェブサイトで執筆を始めることとなりました。何の脈略もありませんでしたが、見知らぬ人たちに自分の書いた文章を読まれることは抵抗がなかったのです。

 わたしは日本や海外の様々な記事、それも行方不明や、犯罪に関わる記事を集め、再構築し、小説化しています。ありがたいことに、これを数年間続けていると、かれこれフォロワーも数千人まで増え、いつの間にかわたしのXやインスタは宣伝用のツールと化しました。一部の根強いファン、というか、読者とはなるべくDMや手紙などでのやり取りをしないことを心がけておりました。そんなんですから、声と顔はなおさら出さないと決めておりましたので、当然の如くインスタライブや、YouTubeの配信を行うつもりはありませんでした。

 はい、今回の事件を経験するまではそう考えておりました。

 今からおおよそ半年前のある午後、それは、見知らぬ女子大生からの一通のDMから始まったのです。おそらく読者の一人なのだろう、とその時のわたしは思いました。

 正直、開封はためらいました。というのも、差出人の名前には覚えがなかったし、顔写真も曖昧な距離感を漂わせていたからです。巷でいう、AI画像なのでは?と感ぜられました。ですけれども、通知欄に残る数行が、どこか必死に縋るような調子を含んでいたため、つい開いてしまったでのす。

 以下、その全文を記していきます。

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