第3ぴょん おバカ夫婦は帝王が心配!

 (仮病じゃないんだけど……もう、なんでもいいや。耐えよう。昔から我慢することだけは、得意だった。)

 

 ガシッ!

 ののの腕を強く掴み、園長室へと引っ張っていくベテラン保育士。

 床を擦る足音が、やけに響いていた。

 

 * * *

 

  『もう一度、光を!』から見届けてくれている皆さん、お久しぶりです。

 そして、『恋する子兎、夢をみる』から見届けてくれている皆さん、初めまして。

 前作で主人公を務めていた、天使 音羽あまつか おとはです。

 

 14年越しの今ーー僕は、27歳になり、寝猫と結婚しました。

 

 職業は、絵本作家。

 主に、『自分の体験談』を形にしています。

 それが生きがいで、楽しいんです。

 

 そして、最近は趣味で、『女装地下アイドル』もしていたり……(笑)

 

 もともと歌うことと、かわいい服を着ることが好きだったんですよね…まぁ、性別はちゃんと男なんですけど。

 

 ご、誤解されないように言っておきますけど!

 かわいい服が好きなだけで、女になりたい願望は無いし、恋愛対象はちゃんと女性ですからねっ?

 

 『性別にとらわれず、やりたいことをやるべきにゃん』って寝猫が、僕の気持ちを後押ししてくれたんです。

 

 だから今、こうしてやりたいことが出来ているんですよ。

 

 そして、待望の子どもも授かりました。

 名前は、音猫(おとね)くん。

 

 由来はーー言わずもがな、僕と寝猫の名前の漢字を入れて名付けたんですよ〜♪

 

 

 

 

 ペチッ!

 

 「音羽!なーにニヤニヤ独り言話してるにゃ!」

 

 音羽は、スーパーマーケットで買い物中、寝猫に猫パンチをされ、ビックリ仰天!

 

 

 ガラガラガラガラガラーー!

 


 

 びっくりした拍子に、押されたショッピングカートは、車輪を回して前へ……前へと進んでいく!

 

 「うわー!ま、待ってくれー!!」

 

 慌ててショッピングカートを止める音羽。

 

 「ふぅ……と、止まった。」

 

 額には、汗が滲んでいる。

 

 「にゃははははっ!音羽最高にゃーん!」

 

 「なにが最高なの!もービックリさせないでよ。」

 

 「ふっふっふー♪今日は、寝猫のリクエストで鍋パーティー!楽しみにゃんね!」

 

 自称、永遠の20歳、寝猫(72歳)は、音羽の腕に手を絡ませながら、ルンルンだ。

 

 「あっ!みて、懐かしいの見つけた。」

 

 音羽は、ドリンクコーナーに置いてあったセロリ味の謎ドリンクに手を伸ばした。

 

 「にゃはは〜泣き虫音羽を元気づけようとしたセロリ味の謎ドリンクといえば……夢!にゃんよね。」

 

 「そーそー!って!!僕は泣き虫じゃなぁーい!つうか最近は、夢の方が泣き虫だからな!」

 

 音羽は、ムキになり、寝猫に言い返す。

 

 「そーなんにゃ?立場逆転にゃんね?」

 

 「そうだよ。なんか、今年から園長先生になったらしいけど、色々大変みたいだよ。最近頻繁に電話越しに泣きつかれる。」

 

 「へぇ……赤ちゃん界の帝王にも、そんな一面があるにゃんね?今も関係が続いていることは嬉しいけど、心配にゃ〜ね?」

 

 「そうなんだよね。あいつ、優しすぎるところあるから、色々と心配なんだよ。今は大丈夫なのかな……」

 

 音羽がそんなことを口にするとーー

 

 「ふっふっふー!よーし!夢に電話掛けちゃおう!ドッキリ電話!ポチッとにゃ!」

 

 「うわあああ!なーに電話してるんだよ!夢、絶対仕事中だろ!!」

 

 プルルルル……プルルルル……♪

 

 音羽が止めようとしたものの、時すでに遅しだった。


 * * *

 

 カチャカチャカチャカチャ……

 

 狭い園長室で、夢は一人、パソコンと向き合っていた。

 

 机には、大量の書類、そして、パソコンの横には、夢の精神安定剤、ミルク入りの哺乳瓶が置いてある。

 

 (はー…マジでやること多すぎだな。昔からそんなに器用にこなせるようなタイプじゃなかったから、大変だな……)

 

 ブワァァァァ……

 

 園長室の窓から風が吹き込みーー

 

 バサァァァァァ!

 

 大量の書類が飛ばされ、バラバラになってしまった。

 

 (あー!もう!!)

 

 夢は、急いで窓を閉め、しゃがみ込みながらバラバラになった書類をかき集める。

 

 (やばいやばい。この前も大事な書類無くして怒られたばかりだし……ってあれ?経費の書類は……どこ?うわぁ……どうしよう。)

 

 夢は、書類をかき集めながら思わず、ひと言こぼした。

 

 「もう、限界だ。」

 

 そんな時ーー

 

 プルルルル……プルルルル……♪

 

 「えっ…で、電話……!また俺、なにかやらかした?!」


 夢は急いで書類をかき集め、机にバサッと置いた。

 

 そして、スマートフォンから鳴る、1本の電話に出ると……

 

 「にゃははははははは!夢!元気かにゃ?寝猫だにゃー!」

 

 「ちょっと寝猫!なにしてるんだ!あ〜夢、仕事中に電話してごめんね。特に用事は無いんだけど、寝猫が心配して電話掛けちゃって……」

 

 「なんだよ……ははっ、びっくりしたじゃん。猫宮先生、久しぶり。元気?」

 

 「うにゃ!夢は?大丈夫かにゃー?」

 

 「それかざー大変なんだよ…さっそく経費の書類がどこかにいって大ピンチ。」

 

 「ええええ!それは、大変にゃー!でも、そういう時って案外、自分の一番近いところに落ちてるってこともあるにゃんよ。」

 

 「え……?」

 

 夢は、足元を確認してみた。

 するとーーペラッと1枚の紙が出てきた。

 

 「あ、あったー!寝宮先生、ありがとう!」

 

 「良かったにゃん!」

 

 「寝猫すごいね!」

 

 電話越しの音羽も思わず関心。

 

 そんな、やり取りをしているとーー

 

 

 

 コンコンコン。

 

 (う、うわあああっ!)

 

 ゴトッ!

 

 夢は、突然のノックに慌てて、通話中のスマートフォンを床に落とした。

 

 「え、え?夢、どうしたの?」

 

 「にゃー?なんか、不穏な気がするにゃあ?」

 

 音羽と寝猫は、通話越しに、心配をしている。

 

 「失礼します。実は、ののお姉さんがちゃーんと保育に入らなかったせいで、ふうちゃんの顔に傷がついちゃったんですよ〜」

 

 「え…。」

 

 目の前に現れたのは、ベテラン保育士と、無理やり頭を下げさせられるーーののちゃんの姿だった。

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