春倣い

右禄

春 倣い


凍傷と言い張る斜向居はすむかいの春の日射しが

長針の留め金の端を呑む


寂れた染色体をほどけど

雪の下は排気口にてたたらを踏み

紙魚すら游がぬ斉唱に退く


うろ、陽の愚直たる矢文の墨汁が

短針から滴る怨嗟を灌ぐ


小指刺す間違いを畏れど

猿滑るのはくろがねの遺志にて二の足を踏み

そして挫いた幻聴に暁を識る


発条の説く御伽噺を

暗澹たるくどさを“え”にして

盗り射ち墜とす弾劾の一は

三千をしたためる一声にとどめられず


勝手口に去る講談師の

散々たるうつろ、鉄錆を前にして

導火線を斬り落とした透徹の視線は

忸怩たる氷面、薄氷うすらい、一筋も煙らず、

いずれも水流つるの礎となる


機巧なく戦慄わななく歩まずの鐘は

倒れども口蓋が幾千世を飾り

北風に春を掲げるでしょう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春倣い 右禄 @Alba1000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る