西の国の国民の話
これは、西の国の国民たちの話である。近年、西の国は経済の落ち込みに苦しんでいた。上がらない給料、隣国である東の国に高関税を課したことによる物価の高騰。そんな現状に対し、国民は日に日に国王への不満を募らせていた。
さらに近頃、東の国との国境付近の市場で爆弾が仕掛けられる事件が多発しているという噂が広まり、それもまた国王への不満を募らせる一因となっていた。
今日も人で賑わう国境付近の市場に、「ドン」と大きな爆発音が響き渡った。人々は一斉に爆発音のした方へ向かう。その場所にたどり着くと、誰かが叫んだ。
「爆弾魔だ!」
「毎日のように市場に爆弾を仕掛ける爆弾魔め! ついに王のご令息にまで手を出したのか!」
その言葉を聞いて、周囲の人々はざわめき出した。
「今、何て言った?」「王のご令息と申したぞ」「もしや、ノエル様のことか?」様々な声が飛び交う中、
「なんのこと?」
と爆弾魔と呼ばれた少女だけが状況を理解できずにいた。すると、誰かが近くを巡回していた騎士に通報したのだろう。
「お前にはこの市場に爆弾を仕掛けた容疑がかけられている。だから私についてきなさい。」
そう告げ、騎士は爆弾魔の前に立った。
「どうして私がこの市場に爆弾を仕掛ける必要があるのよ」
そんな弁明もざわめきによってかき消され、爆弾魔はそのまま騎士の手によって連行されていった。その背中には、軽蔑、怒り、拒絶……様々な感情の眼差しが向けられた。しかし、数秒後には何事もなかったかのように、人々はそれぞれの用事をこなすため歩き出した。
数時間後、「明日には爆弾魔を火炙りの刑に処す」という王からの知らせが国民の耳に入った。その知らせを聞いた国民は、「やっと危険がなくなる」と安堵の表情を浮かべた。
次の日、国民の大勢が街の中央広場に集まっていた。いつもは談笑が聞こえるような広場だが、この日は違った。広場の中心には処刑台が置かれ、そこに爆弾魔が縛り上げられている。ここに集まった大勢の国民は、爆弾魔が火炙りにされる様を見に来たのだ。うなだれている爆弾魔の隣で、騎士がもう一人の騎士と何やらひそひそと話した後、一本のマッチを取り出した。それを箱の側面で擦ると、さっと爆弾魔の方へ投げた。油に火が付き、炎は勢いを失うことを知らず燃え盛る。そんな様子をじっと見つめていると、誰かが爆弾魔に向かって石をぶつけ始めた。一人、二人と石をぶつける者が現れたかと思うと、いつの間にかその場にいる者皆が石を投げ始めた。まるで、石を投げる自分たちは正義であり、石をぶつけられる爆弾魔は悪であるとでも言うように……
爆弾魔の処刑から数日後、今までとは違う噂が立ち始めた。実は、これまで市場に爆弾を仕掛けていたのは王のご令息であるノエル様で、爆弾魔だと思われていた東の国の少女は、それを止めようとしていただけの全くの無実だったという。それを聞いた国民は激怒した。
「なぜ無実の少女を殺したのか」「ただでさえ東の国との関係は良好ではないというのに……」
そうした声を受け、西の国の王アルマンドは国王の座を辞任した。これについては反対意見も上がったものの、東の国の少女を「悲劇の少女」としてその死を悼む気持ちは、国民皆が同じだった。無実の少女の尊い命が元国王の失態によって失われたことを知り、大勢の国民は心を痛めた。そんな中、誰かがぽつりと呟いた。
「この世はなんて理不尽なんだろう」
と。
理不尽 白石澪 @Iam_banana_877
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