放っておいてくれって
自分に関わったところで、甘い蜜など吸えやしないのだから。
今はまだ綺麗に下心を隠しているようだが、そんなものひと月も経てばボロボロに崩れるものだ。飢えた犬のごとくへこへこと頭を垂れながら寄ってくるくせに、蜜が貰えないとわかると、後ろ足で砂どころか石を投げつけて去って行く。皆そうだった。
再びごろりと仰向けになった。目元を覆った腕のおかげで、視界は随分と暗い。
深い呼吸を繰り返していれば、次第に意識も暗闇に溶け込んでいった。
「――っ様、ラン様っ……ラン様、起きてくださいっ」
「……んぁ」
身体を大きく揺り動かされ、成嵐は目を覚ました。
どうやら、いつの間にか寝ていたようだ。
目を開ければ、薄闇の中で随分と凡庸な顔になった雪仙が、こちらを覗き込んでいた。
「……雪仙、化粧をとると別人だな」
「誰がすっぴん妓女ですか。寝ぼけてないで起きてください」
身体を起こすと一緒に、頭の中に残っていた眠気も下へと流れ落ちた。
目を擦ってやっと、目の前にいるのが誰か正しい認識ができた。
「慈于か」
「そうですよ、ラン様。あなた様唯一の忠実なる側近ですよ」
べっ、と舌を出された。
「どうした、わざわざ花楼に迎えに来るとは珍しいな」
いつも皇城の開門と共に西湖宮には戻っているし、慈于もそこは把握していたと思うのだが。
何より、この時間はもう皇城の門はすべて閉ざされている。
彼はわざわざ門兵に金を握らせてまで皇城を抜け出してきたということだ。
ただでさえ彼は、西湖宮を空にするのを好ましく思っていないのに。
つまり、それだけの用があるということ。
「何かあったのか」
一段声を低くして成嵐が尋ねれば、慈于は恭しい手つきで懐から一通の書簡を取り出した。
「
捧げるように差し出された書簡を、成嵐は苦々しい顔で見つめた。
寝起き早々に見たいものでは決してない。
しかし、当然見ないという選択肢などない。
手詔という言葉を使われる者は、この世にたったひとりしかいない。
「ったく」と口を歪めて、成嵐は雑に片手で受け取った。
手詔――皇帝が自らしたためた命令書を読むなり、成嵐は足の間に長嘆をこぼし、重そうに腰を上げた。
「ったく、父上もあの女も、俺のことなんか放っておいてくれたら良いのに」
自嘲まじりの言葉に慈于が哀感を目元に浮かべたのを尻目に、成嵐は花楼を後にした。
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