第四太子の教育係~堅物アラサー女官は、太子に閨教育を所望されています。いや、無理~

巻村 螢

序:波乱の予感

年上を舐めてもらっては困る

 小琳しょうりんには、他者とは少し変わった特技があった。

 聞いたことは忘れないという、なんとも地味なものだ。


 三十年生きてきて、ものを学ぶとき以外に、この特技があって良かったと思ったことは数えるほどしかない。聞いたことを覚えていても、自分は相変わらず平民の女官でしかないし、何かに影響を与えるような大層な人間でもない。


 権力や後宮の寵争いとはまるで無縁の、小説でいえば名すら与えられない、最初に主人公に話掛けて即退場するような端役だ。


 だから、たとえ噂の問題児の教育係を命じられたとしても、それで何かが変わるなんて、これっぽっちも考えていなかったのだ。



 

「俺に時間かけても無駄だよ」


 片足を窓台に立てて座る行儀の悪い男は、小琳を値踏みするような目で眺めていた。


「そんなに俺の講義をしたいってんなら、『ねや教育』の講義なら受けてやってもいいよ」


 窓台から降りた男は、小琳を威圧するように距離を詰めて、目の前に立ちはだかった。


「でもまあ……女しか相手したことのないあんたが、俺を満足させられる自信があればって話だけどさ」


 小琳は少しも怯むことなく、それどころか目の前に迫っていた男の胸板を、手で軽く押し返した。

 トトッとたたらを踏んで、彼は数歩後退る。


「四殿下に閨教育など無駄です」


 真っ直ぐに男を射すくめ、満面の笑顔を湛えて小琳は言った。


「四殿下の子種を、無理に残す必要はありませんから」

「無――っ!?」


 男――第四太子はまなじりが裂けそうなほど目を見開き、言葉を失っていた。


 

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