月の光

檸衣瑠

誠実

(月光……?)

昼休み。ふと聴こえたその音に連れられるように、俺の足は自然と音楽室へ向いていた。



(あれ?開いてる……?)

そっと中を覗く。綺麗な黒髪の女の子がピアノを弾いてる姿が見える。優しいピアノを弾く彼女は、なぜかとても美しくて、暖かくて、気づけばそこで立ち止まったまま、俺はその姿を眺めていた。



―パチパチパチパチ―

「えっ!?」

「……あっ!」

(やっべ、完全に無意識だった)

「えっと、あの、その……」

テンパってる俺に彼女が口を開く。

「あの……、まさか、扉……開いてた、あっ、ましたか?」

「えっ、あ、はい。開いてた……です」

「……っつ!」

慌てて扉を閉める彼女。その慌てぶりがなんか可愛くて、面白くて、思わず俺は笑ってしまった。

「えっ!?なんか可笑しかったですか?」

「あっ、ごめんなさい。あまりに慌てるもんだからつい……」

「私、そんな慌ててたんですか?恥ず……」

「というか、めちゃくちゃうまかったのに、そんな大慌てで扉閉めなくても」

「ミスったら公開処刑は恥ずかしいですって……」

「ほぼノーミス月光第一楽章だったのに?」

「ミスってるじゃないですか!」


心地よい空間が流れる。


「あの、名前、教えてください」

「俺?って俺以外いないか(笑)。月岡つきおか まことって言います」

「え、かっこいい。あ、私は、光山みつやま みのりです」

「いいじゃん、めっちゃぽい」

「ぽい……?そんな実っぽいですか?」

「っぽいです。てか、敬語いいよ。色、2年でしょ?俺3月生まれだし、タメみたいなもんっしょ」

「私も3月生まれなんでタメにはなれないかも(笑)」

「まじかよ(笑)何日?」

「3日」

みつ、お雛様じゃん、あ、俺9日」

「歌われるじゃん。というか、ん?みつ……?」

「光山なんだろ?じゃあ光」

「そこ取られたの初めてです。じゃあ私もつきさんって呼ぼ」

「さん無くてもいいんだけど」

「外身くらいは礼儀正しい後輩にさせてくださーい!」

「なんだそれ」


―キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン―


「えっ?もうこんな時間!?やばい次移動なのに」

「やべーじゃん、どこ?」

「……体育館」

「反対方向じゃねぇか……」

「……」

「……」

『急げーーーーーーーーーーーーーー』

廊下で二人、笑いながらのダッシュ。

「光、またなー。授業遅れんなよ」

「うん。月さん、またねー!」

大きく手を振る光。そのとき初めて、あいつの手が意外と小さいことに気づいた。

「呑気に手振りやがって、急がねぇと本当に遅刻するぞ」




なんか、今日はちょっと暑いな(や)。

『……やだなー、地球温暖化』

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月の光 檸衣瑠 @Leil-net

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