第12話・2006.4.24(mon)23:38:22かおり視点
風邪をひいてしまった。会社で隣のデスクの子が、ずっと調子悪かったんだけど、ついにその風邪をもらってしまったみたいで熱も高くて会社を休んだ。
一人暮らしの部屋。ぐらつく天井。何も食べたくない。このまま一人で死んじゃうのかな・・・って悲しくなって・・携帯を握る。ひろにメールを送った。
『ひろ・・元気?』
30分位して返事がが来る。『元気だけど。・・会社は?』嬉しくて即レスした。『休んだ。風邪ひいたの。』すぐに返事が来る。
『大丈夫?』
『熱がさがんなくて・・何も食べれない・・。』
『熱って何度?いつから食ってないの?』
『39度。一昨日から食べてない。』
『まじかよ。電話番号おしえて。』
『誰の?』
『あんたのに決まってんだろ。おしえろ。』
「なんで?! 」思わず携帯に話しかける私。一瞬躊躇したけれど、結局携番をメールでおしえた。そしたらすぐに電話がかかってくる。
「・・・もしもし・・・」
『・・かおりさん?・・俺・・。』
・・・・ひろだ・・。
「うそ・・・ほんとに?」
『ちょっと・・その声・・大丈夫じゃないじゃん・・。』
「・・・・ひろー・・・・」
『誰もいないの? 』
「いないよ。私彼氏いないもん」
『知ってるよ。そうじゃなくて、親とか。』
「風邪でいちいち親呼ばないわよー・・。ひろー・・」
『・・・あー、わかったわかった。なんか食いたい物あんの?』
「・・・・・たべれないよ」
『・・・薬は?』
「病院でもらった・・。でも効かないのー・・」
『何も食わないから元気出ないんだよ。とにかく今行くから。』
「・・・・・え?」
『てきとーになんか買っていくから。鍵あいてんの?』
「・・・しまってる」
『じゃあ家の前に着いたら電話するから。じゃね。』
ブツッと電話が切れる。・・・・・混乱する頭で私は、ひろの言葉を記憶で追った。行くってどこに?え?ここに?やだどうしようっ・・・すっピンだし、部屋も散らかりっぱなし・・・・ふらつく足。だから這い回って、とりあえず雑誌やゴミを片付けた。メイクしたいけど限界で、玄関までたどりつくと私は冷たい床の上にぺたんと顔をつける。
もしかして、私は重病で・・・これは最後のごほうびなのかな・・・。ひろに会える・・・。泣けてきた。そしたら携帯が勢いよく鳴った。
何とか立ち上がって鍵を開けると、そこにはひろが立っていた。スーパーの袋を二つ持ってる。「・・・大丈夫かよ」そういうと、ドアをしめて、荷物を床に置いた。
私を抱き上げてベッドに運び、布団をきちんとかけてくれてから、また玄関に戻っていって荷物をもって私に声をかける。
「冷凍の・・・すぐ食えるやつとか買って来た。なんかくう?」
「・・・あまいもの・・食べたい・・」
「じゃ、アイス?いちご?バニラ?」
「いちごがいい・・」
ひろは、アイスを一つ私に手渡して、残りのものを冷蔵庫にしまった。
「ビールとツマミしかねえじゃん、なにこの冷蔵庫」
・・・そんなことを病人に言わないでください。恥ずかしながら・・恥ずかしながらだよ。仕事で疲れて帰った後に自分のためのご飯なんか作る気にならないんだもん。でも一昨日まではトマトが入ってたしヨーグルトだってあったんだからね。
心の中で言い訳しながら食べるひろの買ってきてくれたアイスは美味しかった。ひろが選んで買ってくれたんだよね。どんな顔をして買い物したのかな?彼の優しさとアイスの冷たさが私の熱をやわらげてくれた。
「薬は?」
「・・・・・」
私は台所のテーブルの上のバッグを指差す。
「この中?・・俺が出していいの?」
そんなことを聞かれると思っていなかったからびっくりした。他人のバッグだから気を使ったのかな?ほんとはバッグごと私に渡すつもりだったみたいなんだけど、書類やらなんやらが入ってて結構重たかったから、そのまま渡すのは気が引けたんだね。
ひろは「じゃあ・・すみません・・」って何故か一言謝ってからバッグの中を見て薬を探し出してくれた。そして水と一緒に私に差し出す。
ごくんと飲むと、とても苦い。顔に出したらひろが「こどもか」といって笑った。そして水の入っていたコップを片付けると「じゃ、俺バイトだから」と言って、さっさと帰ろうとしてしまう。
「・・いっちゃうの? 」
「・・・うん」
「忙しかったのにゴメンね。ありがとう」
「いいよ。そんなの。バイト終わったら寄るよ。いるものあったらメール入れて」
バタンといったんドアしめたあと、すぐにドアが開いてひろが顔を出した。
「かぎ、ちゃんとしめろよ」
2時間くらいして、ひろから電話があった。私の熱はいきなり下がって、逆にそれが私を焦らせた。足元のふらつきもだいぶよくなって、玄関の鍵を開けて顔を出す。そしたらひろが、ビックリした顔で「・・・大丈夫?」と、私にいった。
「・・熱・・下がっちゃった・・」
涙が出た。ビックリするほど。体も軽い。おなかがグウっとなった。
「いいことじゃん。なんか食う?」
「・・・プリン・・」
「わかった。じゃ、寝てて」
私は一人でベッドに向かってゴロンと寝転ぶ。ひろがすぐにプリンをもってきてくれた。『んっ。』そういって、私にプリンを差し出すひろ。
沈黙。
「なに泣いてんの? 」
「だって・・・」
「くえよ。ぷりん・・・」
「だって・・・・」
ぐずぐずしている私を見て、ひろは溜息を一つついた。そしてプリンの蓋をあける。
「ほら、あーん」
「・・・え?」
「はずかしいだろっ!早く食えよっ!!!」
「おこらないでよ!」
「おこってねーよっ!」
・・・・・・・目の前にいてくれてありがとう。
私はぷりんを一口食べる。ひろが食べさせてくれる甘くて優しい味。涙はどうしてもとまらなくて、苦しくなったし辛かった。
「何で泣くわけ?だいぶよくなったんでしょ」プリンをすくいながらひろが言う。「・・・仮病じゃないよ・・」 私は言う。するとひろが、ぽかんとした顔で私を見た。「わかってるよ」そう言って少し困ったような顔をするひろが愛しい。「ほんとにわたし・・・」そこで私は思い切りむせて咳き込んでしまった。
するとひろが、もー・・って顔をして「だからわかってるっ」っていってくれる。「しゃべるなっ」「誰も疑ってねーだろっ」「もうちょっと食べなよ」
一生懸命慰めてくれる。大好き・・・大好き・・・。
私がプリンを食べ終えるとひろは、テーブルをベッドに寄せてくれて「ほら、のみもの。のどあめ。薬。携帯」と言いながら手に届く所に全部大事なものを置いてくれて「なんかあったら電話して。じゃあね」と言うと、あっという間に部屋から出て行ってしまった。
カンカンカン・・と外階段をおりる音。悲しい。さっきまでの空間があたたかかったぶん、一人の淋しさが心にこたえる。ぼんやりとしていたら、外階段を駆け上がる音がしてドアが開いた。
「かぎ、しめろよっ」
目が合う。私はベッドから起き上がり、まだ少しだけふらつく足で玄関まで歩き、そしてひろに抱きついた。
ずっと一緒にいたいよ。
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