第十五話 分かち合う二人

 二人は、納得できないとシェリアを睨む。シェリアも苦笑しながら、理由を説明し始めた。


「それは、スクリームナイトメアの原料が全く手に入らないからよ。仮に手に入っても仕込むのに最低二十年かかるわ。これは、とあるツテでたまたま時空魔法に当てがあったから作れたようなものなの」


「姉さん、材料を教えてもらってもいいか?」とジュリアスが前のめりに尋ねる。


「栖(すみか)、武華(ぶか)、鳳凰の嘴、雷鳴草の根、後はボイドルイーターの肝臓。最後に、甲殻類モンスターの薄羽。但し武器の傷も魔法も当たってない完品のみ使用可能」


 指を折りながら、シェリアが説明すると二人はその場で両手をがっくりとついた。


「そりゃこれだけ美味しい訳ですよ。店長」


「そんな超難易度の材料をどうやって手に入れたんだ!」


「だから、その時間魔法使ってくれた旅の人が人生の最後にこの世で一番美味い酒が飲みたいっていうから、私も無茶を承知でそれだけの材料を集めたら作ってあげるっていって作ったのよ。それなりに美味しいでしょ?」


 これである。


「その御仁は!?」


「翌日、空の瓶を抱きしめて亡くなったわ。瓶の中には、確かに世界一の酒だったと私への感謝のメモが入ってたけど。その時料金が足りなくてもらった奴だもの。だからその二本で正真正銘最後よ」


「店長飲めない筈ですよね?」


「ショットを作る時に、燃料の実験する為にあけちゃった⭐︎」


「「なんてことを!!」」


 二人の視線が、まだ空いてない瓶の方へ向いた。


「ガンド爺には俺がいい酒を出しておく。だからこれを俺に譲ってくれ姉さん!」


「だめで〜す」


 そういって、シェリアが新品の方を大事に包むとわざとらしく《世界一の酒です。一本しかないので大切に飲んで。元気になって下さい》と書いて風呂敷に包んで背負うと店の外に行ってしまった。


 ちなみに、翌日からガンドは背筋を伸ばし。まるでその酒が神であるかのように祈り、一口だけ口にし。大の字で倒れ、仕事を始めるというルーティーンを酒がなくなるまで続けたという。


 確かに、ガンドは酒がある間は元気になるどころか最高のコンディションを維持し続け。仲間内からは、最盛期のガンドが帰ってきた様だと言われ。「ガンド爺何があったんだ」と尋ねられ。「酒の神にあったんじゃ」とだけ答えたという。


 酒が尽きると、数日間慟哭し続け咽び泣いたという。


 まるで、近所のオジサンにお裾分けのビールでも渡してきたようなノリで。ナイトメアを渡したシェリア。


 その罪は重い。


 結局の所、酒というのは材料も樽も厳選して、配合にも研究が必要な代物である。なんちゃっての配合でこんな名酒を一回で作ってしまうセンスはかなりのモノと言えた。


 実の所、スクリームには及ばなくても。スミレ達が作っている酒類はかなりの上物が出来ている。しかし、スミレの群れは美味いものを飲み食いする為に群全体が食料生産に特化してしまったくらい美味いものを求め。シェリアが頼み込んだら、酒だって出てくるかもしれないが基本的にださない。養殖用に勝手に外へ出て、キノコやら動物やらモンスターやらを採集して飼育。外出を許されているのはスミレが認めた屈強な兵士達だけである。


 ちなみに、当のシェリアはそんな事は全く知らず。偶に農場に遊びに行くと新しい施設や畑が増えてるなー凄いなぁ程度。スミレ達が酒を作っている事すら知らないのである。


 そんな訳で、シェリアは本当にスクリームが最後の手持ちのお酒だと思っていて。ドワーフが元気になる為にはきつくて美味い酒が必要だと思ったので持っていっただけだ。


 実に罪作りな女でる。


 リアンナとジュリアスは、二人してわかり合いながら。夜の街へ消えていった。あれではまるで恋人というよりは、お互い傷を舐め合いながらバーを渡り鳥している親友の様な雰囲気だった。


 シェリアはその様子を見て、ジュリアスにも春が来たと盛大に勘違いし。その恋を応援しようと勝手に心に決めていた。



 実に、はた迷惑な女である。



 翌日、頭を抑え。二日酔い気味に、店に出勤したリアンナに「お楽しみでしたね」とシェリアが言った所。ほっぺたにビンタを往復でもらい、ほっぺがもみじになった。


「店長が思ってるような事は何一つありませんでしたよ?」と凄むリアンナ。曰く、ただ酒を飲んで、店が閉店になって二人で追い出され。屋台をハシゴし、そこも店じまいで追い出され。最終的にお互い別れて自宅に帰り、リアンナは一人自宅玄関で気絶する様に眠り。朝は井戸で水を被って、水を大量に飲んで出勤したむねを説明した。


 ナイトメアを口にした後では、他の酒をどれだけ飲んでも。色がついたアルコールでしかない感じになった事も含めて。


「つまんない」そうシェリアが言うと、無言でリアンナがシェリアのほっぺたを両サイドに引っ張って顔をズームアップさせる。


「てぇんちょぉ?」


「すいません、うちの弟。あまり浮いた話も女性と飲みに行ったなんて話も聞いた事が無かったので勘違いしまひた」とほっぺたを押さえて頭を下げた。




※ジュリアスサイド


 ちなみに、ジュリアスも朝がえりで酔い潰れ気味に家に帰った所。ニアスとリーナの両親が二人して仁王立ちして背中からオーラの羽でも生えているかのような怒りの形相で立っていたわけだが。「すいません、姉さんの所の店員と飲んでまして」と正直に説明すると両親の表情は一転して、菩薩の様な顔になり許された。


 ジュリアスは仕事人間だが、女性関係の浮いた話は全く聞いた事がなく。おかげで両親は一人息子がいつまでも結婚しないのではとヒヤヒヤしていた。


 それが、朝帰りである。


 これが、馬の骨ともわからぬ相手なら身辺調査からだが。リアンナに関してはシェリアの店に採用された際にしっかりと身元が確認されている。


 両親も姉同様に大いに勘違いし、「頑張りなさい」とだけ言ってジュリアスの肩をトントンと触ると家に入ってしまったと言うわけだ。


 ジュリアスの心の中で、吟遊詩人の格好をした自分が「俺達は苦労を分かち合っただけだ」とだけ言って消えた気がした。


 ジュリアスもリアンナも、シェリアに振り回される同志。どこまでもマイペースな自由人に。何処までも苦労させられている。というか、姉はなんでもポンポンと名品を作り出し。売るのかと思いきや、うちは雑貨屋ですだもんなぁ。


(姉さんを雑貨屋だと思っているのは、国中探しても姉さんだけだ)


「だが、誰かに話すとこんなに気持ちが軽くなるものなんだな」ジュリアスは女性どころか男性の友達も今まで殆ど居なかった。しかし、今後は嫌がられない範囲でリアンナを誘ってもいいかもしれないと思った。「ただ、次はスイーツだな。酒はこりごりだ」


※ジュリアスサイドの小話終了


 結局、シェリア達は主力業務に戻り。そして、大枚叩いて魔石をお願いして良かったとご満悦。


 秋でも灼熱になる台所が、ずいぶんと快適に過ごせるようになった。


 ただ、本来であれば食欲の秋を満喫出来るはずが。シェリアの食生活が若干ヤバくなって、自分の商売用のお弁当を恋する乙女の様な表情で見つめていたのをリアンナが見つけて思わず苦笑した。


「店長、これ野菜パン食べます? 奢りですけど」


「食べた〜い」


 というより最早なんでも良かった。毎日節約生活で調味料すら薄味になっていたシェリアにとって、野菜パンでさご馳走であり。一雫の涙をこぼしながら、美味しい美味しいと食べている。


 冒険者ギルドでは相変わらず、復興が中々進んでいない区画の住民が屋台目当てに隣の敷地に殺到していた。騎士団の半数は領主の命令で、警備に出ていたが。その屋台の大半の野菜。具体的には今シェリアが食べているリアンナの野菜パンの野菜もたどっていけばスミレが作ったものが大半。


 リアンナは思った。いや、店長。貴女が涙を流しながら食べてるそれスミレさんが卸したものなんだから。スミレさんに頼めばいいんじゃないの? と。


 多分、店長の事だから。これ気がついてなくて。指摘したら、リアンナちゃん天才か? みたいな顔されるんだろうなぁ……。


 ここ数ヶ月働いて判明した事だが、店長は商売人としては並。技師として天才。そして、人間としてはポンコツだという事がよく判った。


「店長、またなんか買ってきますよ」


「ありがとぉ〜、月末まで凌げれば。食費はなんとかなりそうなんだけど」


「一週間はありますよ」


「冒険者へのダメージが深刻で、お野菜やキノコだけならスミレちゃんにお願いして今は何とかなってるけど、お肉は全然売ってないのよね〜」


(街一つの食を賄える農家が店長の召喚獣待機空間にあるって……)


 呆れるやら、感心するやらだ。


「やっぱり、人の財布で食べるご飯は最高よ♪」


(この人、私の雇い主で。今食べてるその野菜パンの野菜の事実上の卸元なんだけどなぁ……)


 久しぶりに、節約生活メニュー以外のモノを食したご満悦のシェリアを見ながら、ふとリアンナはそんな事を考えていた。



「元気だして下さい、昼からもお仕事ですよ」


 その言葉を聞いた瞬間に口をリスのように膨らませたシェリアが死んだ眼でリアンナをじっと見た。軽いホラーの様なそれに思わずリアンナがうっとなる。


「仕事したくない……」


「ほら、クライストさんも待ってますから。頑張りましょう?」



 じとっとした眼でリアンナを見続けるシェリア。


「ヤダ……」


 食べ物でこうも気力が落ちるのかと更なる一手をうってみる。


「そういえば、クライストさん。野菜のお礼にお肉を持ってくるそうですけど。回復飴無かったら、お土産無しで帰っちゃうんじゃないですか?」



 その言葉に、シェリアの眼に光が灯る。


「やるわよ!」


「はい、店長♪」




 

 



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