第十四話 子供用懐炉と爆薬扱いの酒
あれからも、需要が再び回復しかけている弁当と回復飴を販売しつつ。簡単な魔道具の修理も請け負って、雑貨屋とはかけ離れていくシェリアの店。というのも、エアコンの魔道具はやはり材料が厳しいが。それでも、冬に向けて安価な薪と並行して。安価な暖房の魔導具を考えた。
基本的な平民では毛布などという上等なものは持っていない事も多く、家も隙間が空いている事も多い。
それで、シェリアが開発したのが。ショットウォームと言われる、懐炉の類であるが現代の懐炉と違うところは消耗触媒を必要とせず、燃料が酒であるという事。
酒であれば、濁酒だろうがワインであろうがアルコールが含まれていさえすれば酒粕でも問題なく。一回注油ならぬ注酒をすると丸五日は持つという頭のおかしいコスパを誇る。
使い方は、酒をタンクにいれ。蓋をしめて、蓋に魔力を込める。これだけである。
問題は使用中の酒の匂いを消しきれなかった事。例の魔道具の事もあり、シェリアは自分では外に行く時ぐらいしかショットウォームを使う事はなかった。
最初は子供限定で販売していたこれであるが、余りのコスパの良さに大人のものも作れと猛抗議を受けた。冒険者ギルドや騎士団も、自分達も回復飴を大量注文していたりするので大きな事は言えず。シェリアも鍛治は門外漢であるため、タンクと蓋を外注。完全予約制にして、中の魔道具部分だけを作る事で需要に対応した。
「店長〜やっぱり、ショットの値段もうちょっと上げた方が良かったんじゃないですか?」とリアンナがいう度にシェリアが顔全体を梅干しの様にしながら「うん」と短く返事をした。
ショットは最初子供用として作っただけあって、かなり小さめだ。温度調整もできない。横七センチ縦十センチかつ、一回タンクを満タンにするのに必要な酒は二十ミリリットル。これを、銅三十枚とした。かつ、子供に限り。お店に持って来たら様々な調節や修理を請け負う形にした。
だった筈なのだが、予約を始めた途端に大人の予約が殺到。完全に当てが外れたシェリアは鍛冶屋に外注した分が届く度に。ひたすら作り置きした魔道具をのせるといった事をやっていた。無論自分の休憩時間に。街の子供が凍えたら可哀想だという事で、この魔導具の利益はかなり少ない。
他にも、調整で店に来ていた子供達にリアンナ製マフラーがはやる。ショットを入れるポケット付き。可愛い絵柄は子供達に夢を与えた。
もちろん、一色や二色のマフラーは母親達も作れる。しかし、リアンナのマフラーはデフォルメされたキャラクターが様々な色で編まれているもの。
結果、リアンナも自分の休憩時間にひたすら編み棒を動かしている……訳ではなく。シェリアが作ったハンドルを回すと自動でマフラーになる装置があるのでそれを動かしていた。何故マフラーが子供用しか作れないかというと、この装置の仕様によるものだからだ。
シェリアは全体的に細い。正直な所リアンナは、元冒険者という事もあり筋肉質。なので、あの細さが妬ましく羨ましいと考える事もあるが。真実は割と無情で、単純に節約生活と忙しさと台所の灼熱で痩せただけである。
胸無し、腹無し、背丈無しである。たまに怠けて太るが、働き出すと痩せるを繰り返している。
「店長、マフラー十本出来ました〜」
「そこに置いといて〜」
「それにしても、店長。ショットの注文多過ぎないです?」
もう、一室が金属の風呂の様になっているそれをみてリアンナが苦笑した。
「これ、魔導具部分以外を外注してなかったらと思うとゾッとしちゃうわね」
そう、本体よりも更に小さく。言われなければこれが本体だなんてわからない程の大きさなのにだ。
「動くものは冒険者でも使えって事で、鍛治職人で間に合わない分は怪我をした冒険者向けにタンクとかを作ってもらってるんだけど。心臓部だけはウチで入れないとダメだしね〜」
持ち前の魔眼と針の様なもので手作業で刻印を掘り、発酵時に出る熱を増幅する。その上に魔道具を取り付け、市販の酒がうまく発酵できる様に空気中から僅かずつ酸素やら魔素やらを取り出して、蓄積させた魔力を使う装置をつけていた。この装置には他の成分も熱に変えて最後にはアルコールだけが残り、揮発し燃料として消滅する仕組みとなっていた。
「でも店長、それ魔道具協会に教えてもうちじゃ作れんわ! って怒鳴られたんですよね?」
「そうなのよ、あのヒゲジジイ。こんなの金属を針でちょちょいっと傷入れて刻印にするだけじゃないの」
プンスカしているシェリアにリアンナは心の中でツッコミをいれた。
(いやいや、そもそも刻印は歪みがあったら発動しないし。殆どの魔道具技師は線になる素材を使って貼り付けて回路にするのよ?)
もしくは薬液をミゾに流し込んで乾燥させてサーキットにする。当然薬液部分が乾燥して飛んでしまえば線は切れてしまうので寿命が短い。光魔法で精微にやる方法もあるが、適性が必要な上。光のまわり込み現象を理解していなければ、やはり歪むのだ。
配線も回路も全部傷でって、どんだけ正確に掘れてるのよ店長は。そりゃ、線を使ってないんだから安く出来るって理屈は判るけど。
何とこの魔道具、魔石インクを使ってない。酒の成分をフルに使って、醗酵時に出る熱を増幅しているだけ。そこも、既存の魔道具技師からみれば眼と口と鼻から大量の水が溢れる代物ではある。
ちなみに、深さが違っても刻印として発動しないので手作業なのに機械より正確に掘れてないとダメである。魔導具部分を後付けにして、保護しないと、子供のように動いてぶつけて。回路がひんまがって使えなくなるといったケースも想定してこの様な構造にしている。
リアンナは店長だからしょうがないで諦めているが、技術登録に毎回いく度に誰が真似できるんだと文句をいわれてくるのである。
真似されても技術登録をしてた場合には、それを使う場合に使用料を払う必要がある。しかし、シェリアのこれは理論も製品もあるが真似は不可能。
「姉さん、いる?」
そこへ、弟のジュリアスがやってきた。
「あら、ジュリアスじゃない。珍しいわね」
一瞬だけ嫌そうな顔をするが、すぐに営業スマイルに戻る。「姉さん、うちにもショットを卸してくれよ」
「それ、前にも断ったわよね? 手が回らないからって」シェリアは手を止めずに言った。
「姉さんは、安売りし過ぎなんだよ! 儲けを増やしてこそ商売人だろ?」僅かに怒気が含まれるがジュリアスも姉の技術力は認めている。正直な話、姉がこんな小さな雑貨屋をやっているのが気に入らない。
だが、シェリアは首を横に振った。「来てくれるのは嬉しいけど、天下のカタン商会の責任者がこんな場末の小屋みたいな所にいて暇なの?」
当然、暇な訳は無い。
「自分の店を小屋だなんていうもんじゃ無いよ」
シェリアも言い過ぎたかなと、苦笑した。
「リアンナさん。悪いけど、うちの弟君にやっすいお茶出してあげて」
「やっすいお茶なんていらねぇよ」
「うちにはやっすいお茶しかないのよ」
うむむと唸りながら、じゃあ一杯もらって帰るよと苦笑した。
「姉さんの商品で、販路が必要ならいつでも声かけてくれ」
「その予定は無いわ。でも、子供の頃みたいにジュリアスが好きなパンケーキでも用意してあげましょうか?」
「本当にご馳走してくれるなら、蜂蜜とバターとか自前で持ってくるよ。折角、姉さんが作ってくれるのに、やっすい蜂蜜とバターで出されたらキツイしな」
そのセリフに、すごい顔になるリアンナ。
「そういえば、ガンド爺が根をあげそうだぞ。ヤバかったら早めに言ってくれよ。うちの専属鍛治師にも手伝わせるからさ」
ジュリアスも、姉が心配だから値上げを提案しているのだ。値段を高くすれば注文は減る。でも、シェリアは街の子供達には凍えてほしくないと、これを考えたのだから。出来れば、お小遣いで買える値段におさえたい。
「おっけぃ、後で特大の燃料を投下してくるね」
ジュリアスとリアンナは思わず顔を見合わせて、
「「すっげぇ(すっごく)やな予感がする」」
「ねぇ店長、何を投下するつもりなの?」思わずリアンナが聞くと、まるでホラー映画のような悪人顔のシェリアが「そこの棚にある瓶の四番を取って」
今までにみた事がないほどの悪い顔にジュリアスとリアンナがドン引きしながらも。恐る恐る、震える手でリアンナが四番の瓶を手にとる。
(あっ、これお酒だ)
匂いで判る。これは酒だ。とびきり上等な酒。「リアンナさんもジュリアスも、もし味を見たいなら五番の瓶が同じもので空いてるからそっちで試してね」
真顔で二人は顔を見合わせて、ゆっくりと頷くと、木のカップに酒を半分程注いでそれを二人分用意した。
色が、まるで黄金の様で。香りだけで今まで嗅いだ事のない芳醇な香りがする。
「姉さん、これは……」酒がど素人のジュリアスにもはっきりと判る。
こんな酒をドワーフが用意されたら、馬車馬の様に働くに決まってる。
いや、冒険者でも似た様な反応かもしれない。リアンナだって、元冒険者の酒のみだから判る。これは、燃料なんて生優しいものじゃなく。爆薬の類だと。
(これ、幾らするのよ……)
「銘はスクリームナイトメア。眠りの悪魔の名を冠する。私が知る限り最高のお酒よ。二度と用意できないけど」
二人は震える手で一口、それだけで身体の細胞が五年は若返っていくのが判る。眼を見開き、光悦の表情で天井を見れば天使が舞っているのが判る。
「姉さん、これを売ってくれ!!」
「むりで〜す」
リアンナも、さっきから快感が峠のドリフトレベルで身体をかけ抜けていた。
「店長、これ売って下さい!!」
「むりで〜す」
その返答に二人がこの世の終わりの様な顔でシェリアをみる。
「「何故?!」」
悲鳴の様な声で二人がハモった。
シェリアは、二人に理由を説明し始めた。
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