裏切られた俺を支えてくれるのは君だけ──でもその愛は少し重い

unknown

プロローグ

六月の放課後。

昇降口へ向かう廊下で、俺は足を止めた。


視線の先にいたのは、俺の彼女——春日(かすが)アヤメ。

そして彼女の手首を強く引いたまま離さない、サッカー部のエース上條(かみじょう)レンジ。


抗いもせず、アヤメは唇を重ねた。

短い、それでも決定的なキスだった。


目の奥が焼ける。

息を吸うたび、胸のどこかが砕けていく。


アヤメは俺に気づき、ほんの一瞬だけ目を泳がせ——それから、安堵みたいな表情で目を伏せた。

まるで「ようやく知られた」とでも言うように。


——終わったのだ、と分かった。


恋愛なんて、もう二度と信じない。

そう誓ったはずなのに。


「……大丈夫。カイくんには、私がいるから」


数日後、図書室でそう囁いた少女の瞳は、優しくて、どこか危うかった。

氷川(ひかわ)ユリ。

その声に縋るしかなかった俺は、やがて知る。

彼女の愛が、救いであり、同時に重さでもあることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る