帰り道
放課後の学校に用はないから、終業のチャイムが鳴ると同時にわたしは教室を急いで抜け出す。
背後に響くざわめき。その中に嘲笑するような気配を感じ取ったけれど、もうどうでもいい。わたしは歩みをさらに速めて昇降口まで一気に駆け下りると、少し
この息苦しい監獄から、一刻も早く逃げ出したい。
校門を潜り出ると、駅までの四分ほどの道のりを、周りには一瞥もくれてやらないという気持ちで歩き続ける。甲高い声と湿った声の入り混じる喧騒を抜けて、鳥の声の鳴り響く交差点を抜けると今度は俗世間の乾いた喧騒がわたしを捉えて、包み込んで、ボロ切れになるまで潰そうとする。
笑い合う男子高校生の群れ、支え合って歩く老夫婦、少し値の張るカフェのガラス越しに見えた、グランデサイズのコーヒー片手に一緒に勉強しているカップル。
全部、全部気持ち悪い。
君がいつか言っていたことを思い出す。
「なあ、志帆」
「正義って、どこにあるんだろうな。他人に優しくするのは正義とか大人は言ってるけどさ、そういうこと言う奴は他人には優しくしないわけじゃん」
「だから、正義ってのは強い立場の奴のものなのであって、弱い人のものではないんだよな」
「志帆も、そう思うか?」
「やっぱり。そうだよな、だって、俺らが正しいと思ってることを、大人は認めてくれないし、許してくれないし」
「ほんと、嫌になるよな。まったく」
「こんな世の中、生きる価値ないよ。全部大人が悪いんだ。そうなんだよ」
わかってる。
こんなこと何も正しくなくて、せいぜい思春期の男女の戯言に過ぎず、世の中はそんなに単純ではないことは、わかっている。
でも、救いがないのは事実で、その事実を癒してくれるものなんて、わたしの置かれてしまった環境には、もうわずかしか残ってなくて。
君と確認しあった、ついこの前までは中二病だよ、とか言って馬鹿にしていた変な理屈に縋り付いて、わたしは生きていくしかない。このくだらない世界を。
電車に乗り込む。どこの学校も下校時刻だから、それなりに混んでいてうるさい。
街を抜け出せば学校の監視の目は届かない。校則で禁止されているスマホを、こっそりと隠していたカバンから取り出すと、通知に君の名前。ひと言、ふた言だけそっけないメッセージが添えられていて、わたしはその内容に従うことにする。
「ゲーセン行こう。新しいの入荷したらしいぞ」
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