〔Side:Shino〕未来の数字. トリック オア トリート【5kPV記念回】
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作者のスーパー言い訳タイムです。
どうしても時事ネタ(ハロウィン)が書きたくなってしまったんです。
本編は現在、7月中旬ごろの夏をイメージしているのですが、今回だけは本編よりも少し未来の10月で秋のお話になるので、5000PVの記念回として今回だけ時系列を無視させていただくことを大目に見ていただけると幸いです。
ハッピーハロウィン! トリック オア トリート♪
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今日は巷では「ハッピーハロウィン!」と仮装をして街に集まり練り歩く若者たちや、仮装をしてお菓子をねだりに「トリック オア トリート」と扉をたたく子供たちが主役のにぎやかな日。
そんな10月末日。
ウチとジュリ、それから笹原さんとリオ先輩の四人で、あるところに来ていた。
ジュリが招待してくれたとあるホテル。
大正時代に設計され昭和最初期に開業した伝統的な洋館のホテルには、
そんな由緒あるホテルで今月10月限定で宿泊者へ仮装衣装の貸し出しと着付けをしてくれて、テーマに沿った内装のお部屋での写真撮影が楽しめるサービスが行われていた。
すでに月の頭にはインフルエンサーや著名人の動画や投稿画像が出回っており話題となっていたけれど、ハロウィン当日に来られる人は一握りなようで、今日宿泊できたのはジュリがたまたまオーナーと知り合いだったから。
ウチのようなSNSやメディアに全く縁のない人間がお邪魔して良い所なのかわからず、若干の不安を抱えていた。
――
ホテルに着いて荷物をお部屋に置いてから、ジュリに少しせかされながら、すぐにロビーまで下りてきた。
ジュリと一緒に見せてもらった貸し衣装。そこにはウチのような日本人にしてはかなり高身長な女性でも、易々と着られるサイズの貸衣装が揃っていた。
「シノンこれ似合いそう。お店の方で出してるハロウィン限定の飲み物とも合ってるし、絶対これがいいと思う。ねぇ、これ着てほしいな、どうかしら?」
「ジュリがそういうなら……でも……フリフリだしスカートだし……似合わなくても笑わないでね……?」
「絶対似合うから大丈夫。私を信じて」
「ジュリのことは信じてるけど……」
「じゃあ、シノンはこれ持ってあそこに行って。そしたら係の人が着替えるところに案内してくれるわ」
「え……でも、まだジュリの選んでない……」
「私が着るのはもう決まってるわ。でも今はまだヒ・ミ・ツ。あとでのお楽しみに取っておいてね。それより私、早くシノンのその格好が見たいな。さぁ、着替えてきて」
「え……もう決まってるの? あ、ちょっとジュリ、そんな急かさなくても」
ジュリに押されて選んでもらった衣装を持って係の人の所に行く。
程なくして着付け部屋へと通された。
本場から取り寄せた上質な生地と型で職人さんが手作りしているものが揃えられているとの説明もあったけれど、通気性や軽さなどにも妥協はなく、触り心地もいかにもな高級素材。
一般人ですがこんなすごそうなの着ちゃって本当にいいのでしょうか?
パフスリーブというらしい袖に通すのは少しコツがいるそうで、スタッフの方にお手伝いいただいて何とか腕を通すことができた。
背中側にある留め金も自分一人では届かない位置にあるし、初めて履くパニエ(スカートを末広なシルエットに見せるためにスカートの下に履くアンダースカート)や背中でクロスさせたり大きめのリボン結びをするフリルエプロンも、きれいに着こなすのは人の手がいる。
誰かに見られながら着付けをされるというのはなかなかに恥ずかしかったし、手伝ってくたさるスタッフの方にも手間取ってしまって申し訳なさがあった。
それに、ジュリの選んでくれた衣装もそれなりに勇気のいるもので、頭に乗っている耳付きのカチューシャや後ろで揺れる長いしっぽが歩くたびに主張している。
途中、スタッフの方から耳やしっぽの取り付けは日本人の職人さんのオリジナルのもので、そこだけは海外から取り寄せたものではないという補足があった。
しかし耳やしっぽの部分も生地に妥協はないそうで、事実手触りがとてもよく、ついつい触ってしまいたくなる気持ちを抑えなければならないものだった。
一通りの着替えを終え、スタッフの方にこんな一般人の着付けをさせてしまって申し訳ないといった主旨で謝ると「お気になさらず、それが本日の私共の役得ですから」と上品に口元を隠しながら笑顔を向けられてしまった。
その役得の一回分の機会を奪ってしまって申し訳ないという意味だったのに……
とにかく、合流予定のテーマ撮影スポットに向かいながら、思考を切り替えて他の3人のことを考えていた。
リオ先輩と笹原さんの二人はともかく、ジュリも今頃別室で着付けをしてもらっているのかと思うと、少し気持ちの整理が必要そうだった。
ジュリのところにも、ここと同じように同性スタッフの方が対応してくれているのでしょうけど、それはそれでジュリの着付けのために手を貸すのなら本当は自分がそうしたかった。
でも、あの様子だともともとウチに手伝わせるつもりがなさそうだった。そのこともウチの不安を駆り立てていた。
ジュリはウチの衣装を知っているのに、ウチはジュリのを知らないなんて、今思うと不公平である。
ただ、今日のホテル代金やこのホテル自体の予約も含めて、ジュリにすべて任せてしまっている身としては、そんな小さな不公平に文句を言う資格はない。
ないけど……知りたかったという気持ちや他の人に着付けを手伝ってもらっているジュリの姿を想像するとやるせない気持ちがあるのは紛らわしようがない。それとこれは違うのですから。
廊下を歩きながら、すれ違う仮装姿の客たちから若干の視線が……特に頭やおしりに向いていたり、顔をチラチラと見られているような気がする。
早く誰かと合流すれば、ウチなんかに視線が向くことはないはず……
「お目汚しすみません」と脳内で念仏のように唱えつつ、借りている衣装を気にしながらなるべく隅っこを歩く。
――
会場に近づいてくると、大きく手を振っているミイラ……ミイラ女(?)がいた。
「おーい、紫乃ー。やっと二人目だよ」
「その声、リオ先輩!? ずいぶんすごい格好ですね……寒くはないのですか?」
リオ先輩は全身に包帯をくるくる巻いたような見た目で、特に顔はほとんど包帯で巻かれている。
手足も結構ぐるぐる巻きに見える。足には同じ色の包帯が巻かれた長靴のようなものを履いている。
けれど、体にはそんなに巻かれていなくて、お腹なんてほとんど巻かれず、胸元と腰周りも控えめ……かなり際どい感じにも見える。
ただ、肌が見えている箇所には爛れたように赤黒っぽいメイクで傷とか乾燥でひび割れたような特殊メイクがされていて、かなりの完成度にみえた。
リオ先輩は暑がりで、夏場には結構薄着で出かける印象はあったので、いつも通りといえばそう。
それであえて肌に特殊メイクを施すために大胆に見せている感じなのかな?
とはいえ、さすがに季節的に厳しそうにも見える。
「これ結構寒くてさー、動き回ったりして何とかなるかなーって思ったけど無理っぽい。せっかく、ここまで描いてもらったのになぁ。まあ、せっかくのイベントで体調崩すのもあれだし、あの辺のスタッフの人に上着貸してもらえないか聞いてこようかと思って。ここでほかの二人が来るまで待機してて欲しいんだけど頼める?」
案の定、寒かったようでお腹をぺちぺちと叩いて見せるリオ先輩。
「わかりました。ここで待ってますから行ってきてください」
「おけ、さんきゅー! それと紫乃、それけっこう似合ってるじゃん。んじゃ行ってくるね」
「そ、そうですか? よかった。リオ先輩も似合って……行っちゃった」
包帯グルグル長靴をかっぽかっぽいわせながら近くのスタッフさんの方へ走っていってしまった。
正面からの見た目通り、背中の方もあまり隠れていないのでボディラインが強調されすぎていて、何か羽織るものが必要な理由は寒さだけではなさそうにも見えた。
――
ウチはしばし一人で残る二人を待っていることになった。相変わらず視線が気になってしまい。どうにかして耳としっぽを同時に隠せないか考えていると――
「ねえ」
ふと、後ろから声をかけられて振りかえる。
ナース服に血のりがべっとりとついている仮装衣装。顔にも血が飛び散ったような特殊メイクをした綺麗なお姉さんが立っていた。
この人、さっきあっちにいた気が……
もしかしたらウチと同じように、そのお姉さんも誰かと待ち合わせているのかもしれない。見覚えがありそうなら教えてあげなきゃ。
「ええと、すみません。もしかしてどなたかと待ち合わせですか?」
ウチはとりあえずお店でいつもしている営業スマイルを浮かべておく。
「どなたかって……月岡さん、あなたとも待ち合わせてるつもりで……まさか誰かわからないなんて言わないでね?」
「……え……? ええと、え? もしかして……笹原さん?」
「もしかしてもなにも私ですけども……はぁ、昔好きだった人にわかってもらえないのって、結構傷つくものね……ところでリオはもう来てるの? 今すぐ慰めてもらいたい気分なんだけど……」
血みどろナースのお姉さんは、笹原さんだった。
メイクまで変えてくるなんて、みんな結構本気の仮装。ウチは着替えただけなのにすごいなぁ。これがウチにない女子力なのかも……
笹原さんの手には包帯がいくつかあって、包帯用のクリップも何個か胸のポケットに止めてあった。
「ごめん笹原さん……すごく綺麗なお姉さんが来たと思って身構えちゃった……リオ先輩ならあっちの方でスタッフの人から上着借りようとしてるところだよ」
「そう、一応褒め言葉と思っておくことにするけど、今の私にはリオの言葉以外いらないからごめんなさい」
「そういうとこ、羨ましいな」
「あなたにもいるでしょう? そういう相手が。あ、そうそう。ジュリさんから月岡さんへの伝言というか、メッセージがきていたのよね。相変わらずあなたはあんまりスマホを見ないから、おかげで私に伝言依頼が来てるんだけど……ハイこれ見て。」
「あ、うん。ごめんね、いつもありがとう。ええと、『第2テーマのスポットに来ること』、『着いたら部屋の真ん中を見ながら、私にメッセージを送ること』? これをジュリから?」
「ええ。第2テーマはあそこね。行ってらっしゃい。あとで4人一緒に撮りましょうねってジュリさんにも伝えておいてね?」
「わかった。ありがとう笹原さん」
「この包帯をリオに巻き付けてるからたぶん時間はかかるし、しばらくは二人で撮ってて、後でそっちに向かうわ」
「うん、そっちも二人での撮影も楽しんで。行ってきます」
少し歩いて振り返ると、笹原さんは包帯を伸ばしながらリオ先輩の方へと向かっていくのが見えた。
――
第2テーマのスポットは洋館の雰囲気を活かしたアンティークな家具がいくつも置かれている場所だった。
そもそもどこを切り取っても絵になるようなホテルなのに、この一角はさらに時代を遡ったような雰囲気で、照明ではなく燭台に火が灯されており、暖色系の揺らめく明かりがレトロな雰囲気を彩っていた。
部屋の真ん中にはハロウィンテーマに相応しく、大きな棺が置かれていた。
この棺が部屋の真ん中だから、ここを見たらメッセージを送ればいいんだよね?
ウチはジュリにチャットメッセージで「第2テーマの所に着きました」と書いて送信ボタンを押した。
数秒の沈黙の後、部屋の真ん中にあった棺の方から、なにやら不穏な音が漏れだして――
ギギギギ……
目の前で棺の蓋が音を立てて横にゆっくりと動き出した。
部屋で写真撮影をしていたほかのグループも、何が起きているのか興味津々で棺を見守っていた。
ハンディタイプのカメラを回している人もいて、棺が開く様子を撮影していた。
開いた棺の中には、銀色の長髪で肌が青白い女性が眠っていた。
髪の色も長さも違うものの、その顔つきはウチのよく知る人物だった。
「ジュリ……?」
ウチは恐る恐るその人物に、ジュリに声をかけた。
するとジュリはすーっと目を開けて――
「わらわを起こしたのは誰じゃ?」
上半身だけ起き上がり、ウチに向かって手を伸ばす。その開かれた瞳は紅く、猫のような縦の瞳孔があった。
口からは血に濡れた牙がはみ出していて、胸元が大きく開いた所に血のりが垂れたようについている。
羽織っている真っ黒のマントが、青白い肌を際立たせていた。
「シノン、そなたか。ならば約束通り、そなたをわらわの眷属に迎え入れよう。そなたはその血を永久にわらわに捧げよ」
真祖になりきるジュリに話を合わせてあげた方がいい、ですよね?
「ジュリ、わかりました。この血を、いいえ、全てを捧げて尽くします。ですからどうか、お傍に置いてください」
……ん……
伸ばされたジュリの手を取り、その手の甲に口付けをした。
するとジュリはもう片方の手で、ウチの頭を撫でてくれた。
「そなたはたった今より、わらわの眷属よ。わらわの愛しい眷属よ。いかなる時もわらわと共にあり続けるのじゃ」
ジュリは立ち上がり、棺から外に足を踏み出し、ウチはその両手をとって支えた。
ジュリの目に促されるまま、見ていた方々の方に二人で一礼をすると拍手をされてしまい、今更ながら顔がほてる。
「さーて、シノン。小芝居に付き合ってくれてありがとう! その衣装、やっぱりハマってるわね。シノンの女の子らしさが際立ってて、それにして本当に良かった」
「女の子らしさなんてそんな……衣装で無いものが際立ったりしないですから」
「そんなことはないわ。シノンは普段からもかわいい女の子よ。でも、そのメイド服に猫耳猫しっぽは反則ね。むしろ普段着にして欲しいくらいだわ。おいくらかしら、買って帰らないと。あと2、3着同じものを買っておくのがいいわよね。どうせならシノンに合わせてオーダーメイドした方が」
「そんなことに全力投資しないでください。気に入っていただけたならウチはそれだけで嬉しいですから……!」
「いいえ。まだ足りないわね。その格好でいるのに、シノンには猫っぽさが足りてないわ。シノン、ちょっとここに立って」
「な、なんです、いきなり……猫っぽさって……ここに、立てばいいのですか?」
「はい、じゃあ手はこう。丸めてそう、この角度ね。このカメラ見て、うんそうそうカメラ目線のまま。3、2、1で『にゃん』って言ってね? はい、3ー、2ー、」
「ちょっと待って、どうして静止画なのにセリフ付きなんですか?」
「シノン、私がそうしてほしいってお願い聞いてくれるわよね? 今日は私が招待したんだし、お友達もね。今から私の機嫌次第ではすぐに解散なんてことも……お友達になんて言うのかなー?」
「それ、強迫……や、……やりますから。ちょっと待ってください……心の準備を……」
「だめ、待たない。今やるか、やらないかよ。はい、3ー、2ー、1!」
「にゃん……」
「うふふ、いい動画が撮れたので、無事解散は免れました〜。シノン頑張ったわね〜。よ〜しよ〜し」
「動画って……もしかして……」
部屋に元々居たグループの中に、ちょっとしたハンディタイプのカメラを構えている人がいたことを思い出す。
嫌な予感が……
そのカメラを持つ人は、いつの間にかジュリの背後に回っており、つまりウチの正面にいて……そのレンズはこちらを向いているわけで……
ジュリがその人に手を振ると、その人はグッドのハンドサインを返してこちらにやってきた。
「バッチリ撮れてる?」
「あたぼうよ!」
「じゃあ、データはあとで私に送って、もちろん送った後はそっちのデータは完全に消すのよ、いいわね?」
「あいよ! 仕事なんでその辺は抜かりなく、早速パソコンに繋いで1時間以内には送っときやす」
「ありがと、そうして」
「うっす!」
カメラマンらしいその人はそういうと部屋から出ていってしまった。
「ジュリ……今のって……?」
「協力者の方よ。他にも棺を開けるタイミングを合わせてくれた人に、他のお客さんが入ってこないように見張っていた二人も協力者。一応みなさんキャストの方々だから、契約上の守秘義務は守ってくれるわ」
「守秘義務って、じゃあジュリが雇った人ってこと?」
「そうよ。ホテルにも許可をもらってあるし、一時的にここを貸切ってキャストの方々に撮影協力してもらっちゃった。いつか披露宴で流す映像の1つにしようと思ってるから、素敵な一コマが撮れてよかったわ」
部屋にいた人たちが各々手を振ってこちらに愛想の良い顔つきを向ける。役者の人だ……
「あの、さっきの鳴き声のやつは流さないですよね? さすがにあれは恥ずかしすぎます……」
「あれは私の趣味のコレクションに加える用よ。他の人に見せたりしないわ。定期的に私が見て癒されるだけだから気にしなくて大丈夫よ?」
「それはそれで困ります……! それに……映像より、目の前を見てほしいです……」
「私もシノンがかわいすぎて困っているところよ。まったく、どれだけ私を魅了すれば気が済むのかしら……」
「ウチなんてかわいいわけ……」
「シノンは魔性の女よね。
※この後の会話はいったんご想像にお任せします。4人ともども楽しいハロウィンを過ごしたとことだけは保証します。
作者の近況ノート(2025/10/31)に仮装したシノンのAIイラストも気になる方は見に来て欲しいです。「にゃん……」がかわいい。
バリスタ志望のルームメイトのカフェ店員さんが淹れるコーヒーは、世界で一番優しい味がする【5kPV】 待月 みなも @SigmaBrachium
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