〔Side:Juli〕27. 手取り腰取り


「それで、今日って食事にって聞いていたはずだったけれど、ダブルデートって具体的には何をするかしら?」


「ジュリ、それは着いてからのお楽しみ、なんですって。実はウチもどこに行くのか知らされてないんです。今日は2人の普段のデートを見せてくれるって話で」


「そうなの? てっきりシノンも何をするのか分かってるのかと思っていたわ」


「アハハ……すみません。デートって言っても今日はその、なんというか先程までウチも2人とジュリの紹介が主だと思ってて、そんなに思いっきりデートになるとは思っていなかったので……」


 シノンも若干不安そうに前を歩く二人を眺めながらついて行く様子。

 しばらく歩くと、見知ったレジャー施設が見えてきて、二人はそちらの方に足を向けていた。



 ――


 レジャー施設に入っていき、入場ゲートで係の人に注意事項を聞き、施設内専用の靴に履き替えた。

 複合レジャー施設であるここでは、ビリヤードやダーツ、ボーリングにカラオケ、ゲームセンターなどなど、多様な遊びが体験できる。

 私も学生時代にはよく同じグループの溜まり場のような感じで利用していたので、勝手はよくわかっていた。


 逆にシノンはこういう所に1度も来たことがなかったらしく、靴を履き替えることも知らないようだった。


一十いとさんってダーツとか得意だったりする? もし投げられる人なんだったら、あーしらと勝負しない?」


 秋林あきばやしさんはダーツを投げる振りをして、私に視線を寄越してきた。


「ダーツなら学生時代にしていたきりかな。ルールはわかるわ」


 今では会社付き合いのゴルフに置き変わって、あまり学生時代によく来ていたレジャー施設に来ることはなくなっていた。


「じゃあ、お互いペアで一投ずつ交代で投げて、特典が高い方が低い方に何でも1つ要求出来るってことでどう?」


「いいわね。頑張りましょう、シノン?」


「うん、負けないからね笹原さん、リオ先輩」


 ルールはカウントアップで、1ラウンドにつきペアで 3回ずつ投げて、8ラウンド分の合計得点を競うもの。



 ――



「わっ、また!?」


 そう声をあげるシノンの投げたダーツは、見事にマトじゃないところに飛んでいく。

 5投して当たったのは最初の 1投のみ。


「ごめんジュリ、また外しちゃった……」


「いいのよ、まだ点差はそれほどだから十分巻き返せるわ」


 肩を落とすシノンにそう言って、スローラインに立つ。

 現在 3ラウンドを投げ終えて、シノンが 4ラウンドの一投目を投げた。

 秋笹ペアの得点は、175点。対して私たちの得点は 135点。

 ここで突き放されると勝つのは難しくなる。


「ふいっ!」


「ジュリすごいです! また 18点に当てました!」


「お〜、一十いとさんやる〜」


 これで 4連続で 18点の内に当てた。今の合計は 153点。

 私は得意コースで確実に点を取っていかないとどんどん突き放される一方で、次もシノンの投げる番。


「ウチは次、外さないようにしなきゃ……」


 これは少しまずいかもしれない。

 ここで外れてしまうとまた突き放されてしまうし、流石に挽回が難しくなってくる点差が開く可能性がある。

 何より、こういう所が初めてと言っていたシノンがこの後落ち込んでしまう姿が目に浮かんだ。


「シノン、ちょっといい? 腰周りを少しずらすわよ、力抜いて」


「うん……ひゃ」


 私はシノンの後ろから腰に手を当てて、体の向きをマトに対して斜めになるように向きを調整する。


「今度は少し手を借りるわね?」


「あ、う、うん」


 シノンのダーツを掴む手とその二の腕に触れて、肘の向きや角度を調整していく。


「ダーツを掴んだまま、腕だけ振ってみて。マトに対してまっすぐ振り下ろす感じで、肘の位置はあまり動かさないように」


「こ、こう?」


「そうそう、その調子。それでタイミングを見計らってダーツを手放したら、マトの方に投げられると思うわ」


「これ、離すタイミングってどこ??」


「じゃあ、私が肩にこうして合図するから、そのタイミングで離してみて? 上手くいかなくても大丈夫だから、まずはマトにまっすぐ当たるかだけやってみましょう?」


「うん、やってみます」


「いつでもいいわよ」


「行きます、はい!」


 曲げきった腕が伸びていく途中、腕が伸びきる少し前、私はシノンの肩に合図を送る。

 フォームが整ったシノンのダーツは手から離れてマトに吸い込まれていく。


 ドヒューン という効果音ともに的の色がグルグルと明滅しながらちょっとした音楽が鳴る。

 マトのど真ん中、Bullブルという場所にシノンのダーツが刺さっていた。


「わぁ!? すごい、真ん中に当たりました!」


 無邪気に喜ぶシノンの姿はとても新鮮で、ぎゅっと握られた手に熱が伝わってくる。

 笑顔ではしゃぐシノンを見られただけでも、秋笹ペアにここに連れてきてもらってよかったと思えた。


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