〔Side:Juli〕8. ちょうどいい、関係?


 ……ちょうどいいが見つからないの。……シノン。あなたを除いては……」


 自分でも、まだ整理のついていない気持ちを、私は少しずつ言葉にする。


 ずっと前から思っていた。

 もしシノンが男性だったら、もしシノンと結婚できたら……

 それは私のエゴでしかない。


 でもあの噂の通り、彼女が本当に女の子と付き合っていたのなら……それなら私にも、チャンスがあってもいいんじゃない?って、そんなことをずっと考えていた。

 噂を聞いてから、ついさっき自分で振った彼氏を含めたら、3人ほどの男性とのお付き合いをしてきたけれど、無意識にどこかでシノンと比べていた。


 デートに行くと、繋いでくれない手の寂しさ。

 言葉の端々から、私とどんな関係になりたいのかが透ける。

 必ずしも好意的なばかりではなくて、単なる肉体関係を欲していたり、見下してきていたり、面倒だと思われていると感じることもあった。

 お金目当て……そういう人とも付き合ったことがあった。

 一人の人間として、対等な関係を築こうとしてくれているようには、思えなかったの。


 それでも、私のことを好きでいてくれるのは嬉しかった。

 想いあっている実感をくれたことは嘘ではなかったと思いたいし、いい面もたくさんあって、これまで付き合ってきた人達の全部を嫌うことはできない。

 だから振られるのはいつも苦しい。傷つくのはもう嫌で……けれど、私も同じように彼らを傷つけたり、彼らの要求に答えられていない部分もあったのでしょうから、彼らの出した結論は受け止めるしかない。


 そんな風に受け止められるようなになったのは、シノンが来てくれてからだったかもしれない。

 私の話を、シノンが受け止めてくれるから、私も起きたことに心が引き裂かれずに受け止めて、前向きな気持ちに切り替えられるようになった。

 部屋に帰ってきて、一人で泣きながら、食べることのできないおにぎりを見つめることもなくなった。

 無理なお酒の飲みかたをして、戻したりもしなくなった。

 シノンには、救われてばかりな気がする。



「ジュリ……でもウチは……――」

「シノン……私、今すぐにあなたとどうこうなりたいわけじゃないの……だから、その先のことはまだ言わないで……」


 望み薄なのは分かっていたの。

 私のことを、そういう風には見ていないことくらい、一緒にいたらわかるもの……

 でも……だけど……まだあきらめたくない……


「ジュリ……」


「ただ……私の今の一番は、シノンで。次が仕事、その次かその次の次くらいに男、かな? 今の順位はそう、でも私の気が変わることもあると思うの。それに私はまだまだシノンのことを知らないし、シノンも私のことってまだそんなに知らないよね?」


 これから少しずつ、シノンを振り向かせたいって思っているから……そう思えたのは自分の中での成長だと思うから、大事にしたい。


「……う〜ん……そう、なるのかな? 服とか小物の趣味とか好物とかは、もうわかってるつもりだけどね」


「でも私がエビ好きなのって、まだ知らないよね?」


 もっと知って欲しい。私のこと。


「え、知らなかった。そうだったの? じゃあ今度エビチリにしよ? エビチリは好き?」


 ほら、シノンはやっぱり、私のことを知ろうとしてくれる。

 そういうところも嬉しくて、一緒にいられるのが幸せ。

 今はそれ以上なんていらない。

 欲しがりすぎたらシノンがかわいそうだもの。

 これからゆっくり。ゆっくり一緒の時間を過ごしましょう。


「エビチリ大好き! コンビニであったらエビチリ焼きそばとか買うのよね。そしてシノンのことも大好き。だからこれからも一緒にいて? お願い」


「その流れだとウチがエビチリと同系列みたいじゃんっ。いつか食べられる、ウチ?」


 いつかね。食べたり食べられたり、そうなるのもいいのかもね。


「あはは。じゃあ、今晩はエビチリの代わりに、私と添い寝してもらっちゃお」


「はは、何それ、ふふふ。エビチリとは添い寝しないでしょ」


「え〜? 美味しそうなエビチリのこと考えながら眠れたら、いい夢見られそうじゃない?」


「ふっ、そうかもね。ジュリがよく眠れるなら、ウチはまあ、それでもいいよ。エビチリの代わり、務めさせてもらいます」


 私はシノンの手を引いてベッドに誘う。

 でもこれは、あくまでルームメイトとしてのお誘い。


「私が壁側でいい? いつもそっち側向いてるからその方が寝やすくて」


「いいよ。向かい合ってとか恥ずかしいから助かるかも」


「私、もうたぶん限界だから、すぐ寝ちゃうかも。寝るまでぎゅぅってしてて欲しいな」


 ルームメイトとしてなら、いつもみたいに甘えてもいいよね?


「こう?」


「も少し強めがい……あ、ん、んふ、それ好き♡」


「ちょ、その声やめれる?」


「シノンが出させたんです、私は悪くありませ……あ、なんで離れるの……」


「ウチが出させたなら、やめないとと思って」


「ぇ……ごめん。我慢するから……もっかいお願い」


「本当にー?」


「本当本当、ワタシ、ウソ、ツカナイ」


「変なカタコト、ごめん帰っていい?」


「やっ、だめ……一人にしないで……」


「……」


「あっ……ぅん♡」


「ジュリさん? 漏れてますけど、声」


「敬語いやぁ……ごめんなさい」


「……今だけだからね」


「そ、それずるい……ひぃー、眠れなくなっちゃう!」


「こんなことで嬉しそうにしないでよ、こっちまで照れるでしょ」


「……う……ごめん、だって寝るの本当にもったいなくなってきて……睡魔に全力で抗わなきゃって」


「はいはい、寝不足なんだからちゃんと寝る……ほら、ぎゅーってしててあげるから寝な」


「ふ……ふぅ……!」


「もっとリラックスして……緊張しすぎ……いつもソファーでしてあげてるでしょ。そう……いいね。さあ、おやすみ……ジュリ……」


「……」


「ふふ、いいこ……もう寝たの?」


「……」


「ちゃんと寝てくれなきゃ……心配じゃないですか……」


「……」


「にしても……ぬくい。う~……これ、二人で寝るのも……なかなか……悪くないものなんですね……」


「……」


「……またそのうち……一緒に寝ても……いい……かも…………ウチも……おやすみ……」


「……(おやすみなさい、シノン)」


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