〔Side:Shino〕8. ジュリのこれまでの恋


 ウチはジュリが目の前で彼氏を振るさまを、唖然として見ていた。

 ウチの心配を他所に、もともと彼氏さんとはあまり上手くは行っていなかったようす。

 話は目の前ですぐにまとまったようだった。


 電話の最中は、ジュリはウチの寝間着のTシャツの裾をギュッと握って、声を震わせてしまわないように必死で押さえ込んでいるようだった。

 2週間。付き合うには短いながらも、まったく好きじゃなかったという訳ではなかったのかもしれない。

 それなのに、ジュリにしてもやけに早いお別れで、その上、ウチの知る中だと自分から振っているのは初めてだった。


「シノン……ごめんなさい!」


「はい?」


「聞いての通り、私はさっきまで彼氏持ちなのに浮気をしてしまったサイテーの女です。そんな女に……その、き、キッスをされてしまったこと、本当にごめんなさい!」


 先程からジュリが気にしていた事は、そんなことだった。

 いや、そんなこととは失礼か……ウチのことも、彼氏さんにも、きっとジュリは申し訳ないと感じているんだろうから。

 でも、ウチはウチで、ジュリに伝えてあげないと。


「い、いや、サイテーとかは別にウチは思ってないよ? 事故だし、お互い大人なんだから、それくらい水に流し――」


 ゴン……!


「あーっ、痛っそ……! こら、ドアに頭ぶつけると痛いからやめなさい」


 ウチはこれ以上ジュリがなにかする前に止めないとと、ジュリを抱き寄せてぶつけたおでこをナデナデする。

 幸い、コブにはなっていないみたい。


 当のジュリは、俯いたままウチにされるがままに撫でられていたが、かすれ気味の声で呟いた。


「……流さないで……」


「え……?」


「あれは……私の大切なファーストキスなの……だから……」


 ジュリはウチの腰に手を回して抱きしめ返してきた。


「……そんなこと……言わないで……!」


 ジュリの頭を撫でつつ、静かにジュリに聞いた。


「ねぇ、ジュリ? ジュリは本当に、それでいいの? 女同士なんだし、ノーカンにも全然できるんだよ? 実はウチも経験とかなくて、かなりビックリはしたから……実はそう簡単には忘れられそうもないんだけど……」


 ピクッ


 抱きついたままのジュリが一瞬なにかに反応した。


「……」


 けれど、何も言わないのでウチは話を続けることにする。


「ほら、だってジュリって男性が好きでしょ? ウチは女だよ? こんな男みたいな身長してるし、胸もぜんぜんないけど、一応は女。ジュリだって別にウチと付き合いたいとか、そういうのではないんだよね?」


「……わかんない……」


「ほら、違うでしょ? なら………………わかん、ない……?」


「キスまでしておいて、ほんとにごめん。でも、これは大切な思い出として取っておきたい、って本気で思ってるの。ただ……」


「うん、ただ?」


「私、今まで付き合うのって全部相手任せで……自分から告白する勇気が持てなくて……」


「うん」


「学生時代はずっと好きな人ができても、ぜんぜん振り向いてもらえなくて……から回ってばかりだったから、友達といる方が安心できて……好きな人を自分から追いかけるのが怖くて……」


「うん」


「でも社会人になって、大きな会社に入ったら、周りに負けないようにって頑張って……そしたらいつの間にか、社内で表彰とかされて、注目もされてね? 急に声かけられることも増えてきて……」

 

「うん。ジュリはいつも頑張り過ぎなくらい頑張ってるよ。表彰も注目されるのも、ジュリの頑張りのおかげだよ」


「ありがと……それで私……自分は変わったから正当な評価なんだって……そう思ってたりもした……」


「うん」


「でもね? 周りはほら、前に話した通り男社会ってやつで……私が変わったんじゃなくて、ただ環境が変わって、私みたいなのでも声かけられることが多くなっただけなのかなって……私が女だから、結果的に他より目立ってただけ……」


「そんな事、ないと思うけど……」


「いいの……実際そう、だったから……それで色んな人から声かけられて……私、ちょっと自分でも困るくらいチョロいみたいで……告られたら、好きって気持ちをもらえたら、私も大好きになっちゃうみたいで……」


「……うん」


 実際、ウチが一緒に住み始めてからも、ジュリは告白されて別れてを繰り返していた。

 そして別れる時は決まって相手側からで、ジュリはそれでも毎回涙していた。

 付き合った人を、ジュリは多かれ少なかれ、好きになることができるすごい才能がある。

 でも、世間ではそれを "チョロい" という。


 それは決して悪いことではないのだけれど、そばで見ているこちらにとっては、とても痛々しく心配が尽きない。


「色んな人が声をかけてくれるから、自分から好きな人を追いかける必要なんてないのかなって思っちゃってた……」


「うん……」


「でも……全部違ったんだよね……社会人になってはじめて彼氏が出来て、最初は全力で甘えたりもしてみたんだけど……けど、私がそういうタイプだと思ってなかったって言って振られちゃって……」


「うん、前にも聞いたことあったよね、その話」


「話したね……シノンが泣いてたの、聞いた後だったよね。私が外と家とでギャップがあるって、でもそれも含めて私だよって言ってくれたの覚えてる……励ますつもりが、私の方が思いっきり励まされたんだよね」


「うん。そう言ったし、今でもそう思うし、そのままでいいとウチは思うから、変わらないでほしい」


「そう言ってくれるの……シノンだけなんだ……彼氏が出来て、そのままの私で甘えようとしても、フラれたらどうしようって怖くなるし、実際何回も何回もそれでフラれてる……それで今度は、仕事と同じように外面だけで接すると、評判は上々だけど、私の方が辛くなってくる……ちょうどいいが見つからないの。……シノン。あなたを除いては……」


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